プロ野球「中日ドラゴンズ」の人気マスコットであるドアラは主催試合の7回終了後、バック転に挑戦して球場を盛り上げている。成功すれば1勝、失敗すれば1敗とカウントされ、今季は成功51回、失敗20回で成功率7割1分8厘を誇った。バック転披露の前には、ドアラの“きょうの一言”も紹介される。「天気が変わりやすい。洗濯物はいつほそう…」など毎日違う言葉がフリップに書き込まれることもあり、ファンに親しまれている。
テレビ中継では、ほとんど毎試合そのバック転の模様が放送される。そして、解説者と実況のアナウンサーがその日のドアラについて、コメントするのが恒例になっている。しかし、その内容は解説者によって、実に様々である。
そこで今回私は、後半戦の中日主催試合(8月27日からの巨人3連戦除く)をチェックし、解説者がどんなコメントを添えているかを調べ、分析してみた。その結果、明らかになったのはドアラにとってあまりに過酷な現実だった――。
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成功率を上げると解説陣の要求も上がる「ドアラのバック転」
“無視、賞賛、非難”――。1990年代にヤクルトの監督を務めた野村克也氏は『三流は無視、二流は称賛、一流は非難する』という選手操縦法で、古田敦也や石井一久、高津臣吾などを育て上げ、4度の優勝、3度の日本一に導いた。
この言葉は、解説者がドアラにコメントする時にも当てはまるのではないか。私は今回の調査を通して、そう思うようになった。それほどドアラと解説者との関係は、深いものだったのである。
まず、東京五輪での中断後、初めてバック転を披露した8月17日の広島戦(バンテリンドームナゴヤ。以下全て同球場)を振り返ってみよう。ドアラが捻りを入れず、シンプルなバック転を成功させると、解説の鈴木孝政氏はこう述べた。
鈴木氏 ちょっと無難にこなしてくれたかなっていうね。
加藤晃アナ 攻めて行って欲しかったですか?
鈴木氏 まあいいでしょう、これで。いいでしょう。
加藤アナ 後半戦、ドアラも初めてですからね。
鈴木氏 はい、はい。立ち上がりですからね。
落合博満監督最終年の2011年、開幕から22回挑戦して成功わずか4回で2軍落ちを経験したこともあるドアラだが、近年は成功率を上げているため、解説陣の要求が高くなっている。「綺麗でしたね」(彦野利勝/9月15日)「ああ、素晴らしい」(多村仁志/9月28日)のように“称賛”する人は稀だ。これはそれだけ“一流”と認められた証拠で、失敗すれば“非難”が待ち構えている。落合監督時代のエースである吉見一起氏は、8月18日の広島戦で着地を決められなかったドアラにこう呟いた。
江田亮アナ:おっと! 今日は、捻りは加えていませんでしたけども。吉見さん、今のどう見ますか?
吉見氏:……準備不足かなと。