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 このまま自宅にいたのでは危険だということで、入院が決定した。24時間の見守りがつき、自傷を防ぐために筆記用具や紐の類は渡してもらえない。そんな入院生活が続いた。

 自殺念慮がおさまった後も、まみさんはM町の中学校には戻らず、病院に付属の支援学級で過ごした。おかげで徐々に事件前の日常を取り戻すことができるようになった。

 ことがここにおよんでも、学校側の認識はいたってイージーだった。2月のはじめに学校での話し合いが持たれたのだが、当時の校長は「チームまみを結成し、みんなで頑張ろー」と半笑いで拳を振り上げたという。

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第三者委員会設置までの紆余曲折 

 国の示したガイドラインでは、いじめによる「重大事態」の疑いがあれば、その段階で速やかに調査することを義務づけている。「重大事態」とは、いじめによって心身や財産に重大な被害が生じた疑いがあったり、いじめによって相当の期間学校を欠席しなければならなくなっているケースをさす。

 いじめによる自傷行為に追い詰められたまみさんのケースはどう考えても重大事態なのだが、学校側は「違う」と言い張った。それどころか、教員への聞き取りからまみさんの自傷行為の原因を「母親との不仲によるもの」といった趣旨の報告書を県の教育委員会に提出したのだ。

 恵子さんから相談を受けるようになった阿部氏は、次のように語る。

「これまで多くのいじめ事件を調査してきたのですが、学校や教育委員会は自殺や自傷の原因を『家族間のもめ事』として事態を矮小化しようとするのはよくあることです。あくまでも悪いのは家族であって学校は関係ないとの態度です。私が関わった愛知県の名古屋市名東区で起こったいじめ自殺事件でも、当初学校や教育委員会は『家族間の問題』と言い張っていました」

弁護士や児童福祉司などの名前の公表も進まず

 まみさんが手首を切るなどして自殺を図った理由は、いじめにあることが明白だ。しかし、学校も教育委員会も認めようとしない。

「阿部さんのアドバイスを受けて、私は市の教育委員会に対し、まみのいじめについての調査をするための第三者委員会の設置をお願いしていたのですが一向に実現してくれませんでした」(恵子さん)

 2018年11月1日、第三者委員会が機能していないことが批判的に報じられると一転、5日後に北杜市教育長が記者会見して第三者委員会の設置を宣言した。

「ただ、その第三者委員会にしても、弁護士とか児童福祉司などの肩書きは公表するのですが、名前については伏せたままなんです。正直なところ学校や教育委員会に不信感があったので、氏名の公表をお願いしたのですが、それもなかなか進みませんでした」(恵子さん)

 この流れを変えたのが、いじめ探偵の阿部氏だった。