ある日、いきなりクラスのリーダー格の女子児童から「バイキン」という言葉を投げつけられ、校内ですれ違うたびに「死ね」と囁かれたりするように……。中学校に進学しても、「まちに一つしかない学校」に集う顔ぶれは変わらず、地獄のような日々が続いたという。
山梨県北杜市で2018年に発覚した女子中学生の自殺未遂事件。この事件について2021年11月4日、市の第三者委員会が最終調査報告書を発表した。手首を切って自殺を図った当時中学1年生の女子生徒に対して、校内での執拗ないじめがあったと認定したのだ。
被害者の女子生徒は被災地・福島県南相馬市からの転校生で、引っ越してきた小学校3年生当時からいじめは始まった。
シングルマザーの母親に心配をかけたくない。いじめの被害を言い出せないまま、思い詰めたすえに女子生徒は自らの手首をカッターナイフで切った。しかし、その事実が発覚後も、学校や教育委員会の対応は鈍かった。絶望した母親がすがる思いで頼ったのは、いじめ探偵として知られる阿部泰尚氏だった。
阿部氏によって事件解明がなされたこの震災いじめとは、一体どのようなものだったのだろうか。なぜ彼女は手首を切るまで追い詰められたのだろうか――。
原発の地から越して来て
山梨県の北西部に位置する北杜市M町。北に八ヶ岳の最高峰、赤岳を望む風光明媚な土地である。
一家がこの地に越してきたのは、2013年8月のこと。いじめの被害者・吉川まみさん(仮名)は当時小学3年生だった。
吉川まみさんの家族は、もともと福島県南相馬市の出身だ。2011年の東日本大震災による原発事故のために同市には広い範囲で避難指示が出されていた。幸い吉川家はその区域ではなかったが、まみさんの母親・恵子さん(仮名)は当時、次女を妊娠中だった。
住んでいる場所が避難地域でないとはいえ、お腹の赤ちゃんへの影響が心配だ。少しでも原発から離れて暮らしたいと考え、一家は自主的に避難生活を送っていた。
両親が離婚、山梨県北杜市へ
福島県内の避難所を転々としながら、恵子さんは無事に次女を出産した。ところが避難生活のストレスもあったのか、夫との仲が上手くいかなくなり、離婚。生まれたばかりの次女と当時小学校に入学したばかりのまみさんを抱え、恵子さんはシングルマザーとなった。
ただでさえ原発事故の影響で生活はままならない。女手ひとつでの子育ては不安が大きく、恵子さんは自身の両親を頼った。恵子さんの両親、つまり、まみさんの祖父母もちょうどその頃、引っ越しを考えていた。選んだ地が山梨県北杜市のM町。祖父がサラリーマン時代に山梨県に赴任した経験があり、馴染みがあった。