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 そして最終的に県内でも自然が豊かで美しいと言われる北杜市を選んだのだった。

 震災で辛いこともあったが、新天地でイチからやり直そう――。 

 おじいちゃんとおばあちゃん、母親の恵子さんと生まれたばかりの妹、この5人での新しい生活が始まり。まみさんは、町にひとつだけある小学校に3年生で転入することになった。

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“きたりもん”はバイキンあつかい

 吉川まみさん一家が越してきた山梨県北杜市M町は、地域を南北に分ける国道から幾本も延びる小道に沿って住宅が点在する、人口3000人程度の小さな集落である。

 転校した小学校は、各学年1クラスだけ。まみさんの学年は全部で25人だった。彼らは幼稚園のころからずっと一緒に育ってきた。そうしたクラスにまみさんは原発の町から転校生としてやってきた。

 ある日、いきなりクラスのリーダー格の女子児童から「バイキン」という言葉を投げつけられた。小学校3年生のまみさんにはどうしてそんな事を言われるのか分からない。はじめは聞き流していたのだが、言葉の暴力は徐々にエスカレートして、校内ですれ違うたびに「死ね」と囁かれたりするようになった。

©iStock.com

 いじめ探偵として知られる阿部泰尚氏が次のように説明する。

「山梨地方の甲州弁に『きたりもん』という言葉があります。『他所からやってきた者』という意味です。他の地域から越してきた者と、地元に長く住んでいる者を区別するために『あいつは“きたりもん”だから』といった使われ方をする。それほど排他的な場所なのです」

 小学校のクラスメートもまみさん以外は生まれた時から地域で育ち、全員が家族ごと知り合いだ。原発の町からやってきた”きたりもん”は絶好の標的だった。

大人が家にいない時間を狙って…

 言葉だけなら無視すればいい。まみさんは心のスイッチを切って学校生活を送った。しかし、いじめはそれだけでは済まなかった。

 ある朝、学校に来てみると靴箱に上履きがない。クラスメートに聞いてみたが誰も知らないと言う。まみさんはあちこち探し回ってやっと見つけた。上履きは靴箱の一番上の見えないところに投げ込まれていた。

 学校を出ても、安心はできなかった。

 ある日の放課後、いじめのリーダー格Yが仲間を連れてまみさんの家までやってきた。

「まみちゃん、遊ぼう」

 玄関でにこにこ笑っている。学校では辛く当たるけど、もしかしたらこれからは仲良くしてくれるのかもしれない。まみさんはそう思って、訪ねてきた子たちを家の中に招いた。

 ところが、いじめっ子たちはすぐに本性を表した。Yがふざけた調子で、まみさんを押し倒し、体をグイグイ床に押し付けるのだ。