「これ以上、『大丈夫』を演じることができない……」
東日本大震災による原発事故のあった福島県南相馬市から山梨県北杜市M町に引っ越した吉川まみさん(仮名)は、2013年の転校直後からいじめを受けて、2017年11月、自らの手首をカッターナイフで切った。
幸い命に別状はなかったが、入院を余儀なくされ、病院付属の支援学級で過ごすことになった。明らかになったいじめの実態は壮絶だったにも関わらず、学校や教育委員会は思うように対応してくれない。母親が頼ったのは、いじめ探偵として知られる阿部泰尚氏だった。
結局、いじめから逃れるため、まみさん家族はM町を離れた。自殺未遂を犯すまで追い詰められていたまみさんだが、その後は少しずつ落ち着きを取り戻し、現在は高校生になった。ところが、今でも苦しみは続いているという。一体なぜなのか――。
まみさんの胸のうちを綴った手紙を受け取った阿部氏は、「いじめの原因を作ったのは地域の大人たちだ」と断言する。
おさまらない自傷行為
以前住んでいた南相馬市では、避難所を転々とする生活。北杜市に引っ越してきて家族は、やっと落ち着くことができた。いじめの事実を語れば、また引っ越すことになるかもしれない。まみさんは「家族に迷惑はかけたくない」との思いから、いじめの事実を胸の奥にしまい込んでいたのだが、それにも限界があった。
2018年1月30日。朝ごはんの用意をしている母親・恵子さんに向かってまみさんは絞り出すように言った。
「もう限界。学校に行けない。休ませてください」
引っ越しから4年、まみさんはずっといじめられていた。
学校を休み、精神科に通院するように
母親に初めて、その事実を切々と語った。ギリギリまで耐え忍んできたまみさんは、極度に不安定な精神状態になっていて、いつまた自殺を図ってもおかしくない様子だった。母・恵子さんは一計を案じて「子どもの人権110番」に連絡し、事の次第を説明した。
「同時に精神科の思春期外来を受診しました。通院中も非常に危険な状態なので付属の病院に入院しましょう。ということになったのです」(恵子さん)
学校を休み、精神科に通院するようになっても、まみさんの自傷行為は続いた。
「しばらくは自分の部屋の壁に頭を打ち付けたり、ベッドの手すりに首を打ち付けるなどの行為があったのです」(恵子さん)