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ライオンズファンが初めて見る“最下位”の景色が思いがけず心地よい理由

文春野球コラム ペナントレース2021

 初めて「最下位」を見ました。埼玉西武ライオンズ、42年ぶりの最下位フィニッシュ。前回最下位となった1979年は、アメリカと中国が国交を樹立し、中東で革命と戦争が起こり、アフガニスタンが侵攻された時代でした。国内ではマスクをした美女(※口が裂けている)が世間をにぎわせ、パ・リーグではバファローズが優勝したあの年。……こう言うと2021年と区別がつきませんが、とにかく西武はそういう年以来の最下位となったのです。歴戦の古参ファンを除いて、多くの西武ファンは生まれて初めての最下位を体験しています。

 しかし、初めて見る「最下位」の景色というのは悪くありません。むしろギリギリで最下位を回避するより気持ちよくさえあります。

 世間では「最下位は忌避すべきもの」という信仰があるのかもしれませんが、エンターテインメントにおいて負けることは決して悪いことではありません。むしろ、負けることによって新たな展開が生まれ、エンターテインメントは活性化されます。ウルトラマンだってゴジラだって鬼殺隊の柱だってたまに負けるのです。虚構なのですから負け展開を作る必要はないのに、わざわざ負け展開を入れるのは、「面白くするため」にほかなりません。負けることで対戦相手の価値が上がり、次なる勝利の価値が上がり、面白くなるからあえてそうするのです。

 野球だって同じこと。「勝ったり、負けたり」することで勝ちも負けも新鮮さを失わず、繰り返すシーズンを楽しむことができます。「42年ぶりの最下位」というネガティブは、裏返せば「42年ぶりの新鮮さ」というポジティブです。来季の埼玉西武ライオンズは、42年ぶりの負け展開を踏まえ、新鮮なことだらけの1年となるでしょう。来季が今から待ち遠しい、それぐらい前向きな気持ちです!(※ただし、今すぐ始まると普通に2年連続最下位になるだけだと思われるので、今すぐには始まらなくてヨシ!)

 

2022年の埼玉西武ライオンズは「対戦相手が全部格上」で楽しい

 西武が最下位であるということは、対戦相手は全部格上のチームということになります。優勝したオリックス、51年ぶりにマジックを点灯させたロッテは言うに及ばず、親会社の強力な支援のもと強化に励む楽天・ソフトバンク、新庄ビッグボスのもと巻き返しを図る日本ハムまで、すべてが格上の対戦相手であり、西武は挑戦者の立場。交流戦に関しても「DeNAはもしかしたら格下かも?」と思う程度で、襟を正して臨むことになります。1勝の価値も飛躍的に上がるでしょう。白星ではなく金星と呼びたいくらいです。

 そのことは球団経営にも前向きな変化をもたらすでしょう。ここにひとつのデータがあります。ここ数年の西武球団によるグッズ配布(※スポンサー提供やコラボイベントなどではなく球団の営業努力として行なわれるもの/FC限定などの条件を問わないもの/公式サイトの日程カレンダーにおいてプレゼントマークで表示)を振り返ると、西武球団は対戦相手を選んでモノを配布しておるフシがあるのです。

 2021年で言えば楽天戦で5回、オリックス戦で4回配布し、ソフトバンク戦2回、ロッテ戦1回、日本ハム戦で0回とつづきます。2020年はコロナ禍によりそれどころではなく、2019年はオリックス戦で7回、日本ハム戦で5回、楽天戦とロッテ戦で4回、ソフトバンク戦0回となっています。さらに2018年はと言うと、楽天戦で6回、日本ハム戦で4回、オリックス戦で2回、ソフトバンク戦で1回、ロッテ戦で0回となります。

「開幕シリーズは何となくモノを配らざるを得ない(※2019年はロッテ戦4回配布のうち3回は開幕シリーズ)」「地方での主催試合では対戦相手がどこであろうがその日配るしかない」などの背景事情もありますので多少のバラつきはありますが、大きな傾向としては「ソフトバンク戦とロッテ戦ではモノを配りたくない」「楽天戦とオリックス戦と日本ハム戦ではモノを配ることもやぶさかではない」という両極の姿勢が見えてきます。このことを意識したのは「モノをもらおう!」というもくろみでチケットを買っていると、何故かオリックス戦が多くなるという気づきからでした。

「モノをもらおうとするとオリックス戦」
「オリックスばっかり見てる気がする」
「オリックス戦で配る率高過ぎでは?」
「……ははーん、テコ入れだな?」
「一部ファンの敵対心が強い楽天戦と」
「知ってる選手がいないオリックス戦は」
「チケットが売れないのであろう?」
「仕方なくモノで釣ろうというわけだ」
「あー、そういうことね、完全に理解した」

 ……といった邪推も働くわけですが、来季からはこうした意識もガラリと変わるでしょう。対戦相手はすべて格上ですし、スタープレーヤーも向こうにいるのです。「モノがもらえるからオリックス戦」ではなく「山本由伸さんが見たいからオリックス戦」と、ファンの試合選びも球団の営業姿勢も変わっていくのです。どの試合も挑戦者の気持ちで臨み、どの試合もワクワクドキドキできる。優勝球団オリックスを見られてさらにモノがもらえたりなんかしたら、ちょっと申し訳ないくらいの気持ちになりそうです。