まだ18歳、将来性の詰まった大きな体をかがめながら、時計の並んだショーケースを初々しい目で見つめていた。彼は、柔らかな関西弁で、買い物に付き添った知人に問いかけた。

「これ、オカンに似合いますかね?」

「いや、オカンは年が年ですよ……」

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 入団1年目、母親へのプレゼント選びをしていたのは、髙橋大樹である。高校通算43本塁打、京都の名門・龍谷大平安高校の主砲は、2012年、広島カープにドラフト1位で指名されていた。

髙橋大樹

「僕もプロ野球選手が夢でしたから、彼がエリートなのはわかります。高校ジャパン(U-18 日本代表)だし、ドラフト1位です。プレッシャーがあったと思います」

 プレゼント選びに同行していたのは、髙橋とはこの時から9年の付き合いになる藤川隼人さんだった。プロ野球界の人間ではない。ホテルマンだ。

「知人の紹介で一緒に食事をさせてもらったのがきっかけです。まだ入団まもなく、口数の少ない印象でした。ハキハキした感じでもありませんでした。フレッシュな若者という感じでもなかったです」

 しかし、一人っ子の髙橋は、藤川さんを兄のように慕った。「いてくれてありがたい存在ですし、たくさんの時間を過ごしました。野球の話をするとケンカになってしまいますが、いつも応援してくれてありがたく思っています」。

「僕のオカンと一緒に野球を見にきてくれますか?」

 髙橋の武器は、抜群の運動センスだった。「柔道、剣道、陸上もやりましたが、野球が楽しいと思いました。野球は、投げる、打つ、走る、いろんな要素があって楽しいと思いました」。小学校3年になると大阪府藤井寺市の軟式野球チーム・大井リバーサイドに入った。才能は着実に開花し、龍谷大平安高校では全国区の外野手へと成長を遂げた。1年秋からベンチ入り、2年夏の京都大会では1大会3本塁打、3年夏の甲子園は1試合4安打も記録している。

「なぜだかわかりませんでした。打球が飛んでいました。力感なくスイングしているのに、打球がスタンドインしていました。勝手に反応しているような感じでした」

 もちろんセンスだけではない。様々なスポーツで培った土台に、龍谷大平安高の練習がマッチした。「うちのチームはウォーミングアップに2時間くらいかけることもありました。ストレッチはしっかりやっていました。腹筋1000回もありましたし、ブリッジの体勢で歩くこともありました。エアロビクスや水泳が練習メニューにあって、ボールにあまり触らない日もありました」。

 パワーだけではない。しなやかさも兼ね備えたバッティングは、超・高校級だった。大谷翔平、藤浪晋太郎、鈴木誠也……髙橋もまた、世代の先頭集団を走るはずだった。しかし、プロ野球の世界、ランナーたちのスピードは一様ではない。2014年に一軍デビュー、2018年プロ初安打、2019年プロ初ホームラン。髙橋は、遠回りもしながら着実な一歩を踏みしめていた。そして、2020年はグリップを下げるなどのフォーム改良も奏功し、「振りにいく中でボール球にはバットが止まる」「低く強い打球をセンターへ」という意識で、夢と役割に折り合いをつけながらチャンスを窺った。ただ、8シーズンで20安打、現実の風は感じていた。