心にぽっかりと穴が空いたときは、癒やしが何よりも沁みる。広島・高橋昂也投手(23)が、どうしようもない喪失感を覚えたのは2年前のことである。
ハムスターと一緒に過ごしたリハビリ生活
高卒2年目の18年に開幕ローテーション入りしてプロ初勝利を挙げた。将来を期待されて積極的に先発機会を与えられ、計画通りなら翌年には非凡な才能がより大きく花開くはずだった。しかし、そんな青写真通りには進まなかった。19年2月に左肘を手術。長く苦しいリハビリ生活が始まった。
過去に経験した故障は、小学3年時に「野球肘」を発症した程度だ。当時は、3カ月間キャッチボールを禁止された日々が我慢できず、自宅で球を握り続けて軟式の新球を灰色に変えたと言う。今回受けたトミー・ジョン手術は、実戦復帰まで一般的に約1年半もかかる。心が癒やしを求めていた。
「先代はハムスターを飼ってたな……」。17年に同じ手術を受けた床田は、寮内でハムスターを飼育。そこから火がつき、若手投手を中心に大野寮内で「ハムスターブーム」が到来していた。ひとまず高橋昂もペットショップに向かうことにした。そこで白毛のジャンガリアンハムスターと目が合う。つらいリハビリ生活をハムスターと一緒に乗り越えることに決めた。
白毛であることと自身の愛称「コヤマル」から拝借し、「しろまる」と名付けた。じっと眺めてはスマホで撮影し、ベストショットはLINEのアイコンにした。夜行性のしろまるが夜中に思う存分ケージの中を遊び回ろうが、早起きのコヤマルは気にせず熟睡。周りが騒がしくても寝られる長所が役立った。「我が子のよう。癒やされるどころではない。溺愛です」。物寂しさも相まって愛情たっぷりに育てた。
リハビリ組の3軍は、コロナ前から不要不急の外出が禁止されていた。2軍本隊が遠征に出れば、寮内のハムスターの世話係を担当。後輩の山口らから「うちの子にエサあげといてください」と頼まれれば快く引き受けて、ハムスターブームを下支えした。寮内のハムスター同士でじゃれ合ううちに、しろまるの額に小さな傷がついてしまったこともある。飼い主の左肘には手術痕。お互い立派に戦っていた。
ただ、しろまるの力を借りようと心の傷はふさがらなかった。患部の状態は一進一退を繰り返し、リハビリ期間が果てしなく感じた。実戦復帰は20年9月。手術から1年7カ月も経っていた。