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2021/11/20

青木宣親もCSは緊張していた

 しかし、あんなにはしゃいだ選手たちもCSの試合前は緊張感がありました。CSへの意気込みを聞く動画をずっと撮っていたのですが、練習前の青木宣親さんはすごかった。カメラを向けても「カツ! カツ!」としか発しない。(何か、俺、粗相でもしたかな)と思いながら、さらにカメラを向けても「カツ! カツ! カツ!」。

 

 いつもは寡黙で、表情ひとつ変えず練習に取り組む青木さんが妙なテンションになっている。もちろん青木さんは「勝つ!」と言っていたようなのですが、一瞬「張本さんかな」とツッコミを入れようと思ったのはここだけの話。それほど選手は気合いが入っていたとご理解ください。

 実際、CSに初めて出場した渡邉大樹は「人生で一番緊張しました」とのちにつぶやき、第1戦の最初の守備で、センターに抜けそうなゴロを好捕、流れを持ってきた西浦直亨も「吐きそうになりました」と言っていたほどです。確かに途中から守備に就いた渡邉はガチガチで、見ているこっちが緊張したくらいでしたから。

高津監督の「気持ちいいね!」と“シリーズ男”塩見のズッコケ

 そんな緊張感から解放されたのか、表彰式では高津監督も「気持ちいいね!」と安堵の表情をしていました。CS前の最初のミーティングで守備も走塁も「攻めていこう!」とおっしゃっていたことは選手にも伝わり、選手も結果で応えましたよね。

 塩見はMVPを取りそこなって、残念だったかも知れないけど、あのズッコケで「シリーズ男」を印象づけたと思います。実を言うと僕も本当に最後の最後まで知らず、「塩見、奥川どっちだ!?」とかたずを飲んで見守っていたんです。でも、あそこで取り損なうのが塩見の塩見たるゆえん。日本シリーズにその「忘れ物」を取りに行けばいいのです。

 

15年、代打で1打席立っただけでも「誇り」

 さて、今夜からスワローズにとっては6年ぶりの日本シリーズが始まります。15年のときは代打で1打席立っただけの僕が言うのもおこがましいですが、やっぱり日本シリーズは特別な舞台。いつもはそんなことを意識しない僕でも、日本シリーズ用にバットを新調したほどでしたから。

 第4戦の8回裏、ホークス・千賀滉大の初球を振り抜いた打球はびっくりするほどボテボテのサードゴロ。その1打席しか日の目を見なかったバットには、なんと日本シリーズ用に特別に誂えられたボールの金色の刻印が移ってたんです。もはやほとんど現役時代のものを持っていない僕でも、その金の刻印がついたバットは自分だけの「誇り」として今でも大切に保管しています。

 きっと初めてその舞台を踏む選手は期するものもあるでしょう。親御さんや親戚、恩師、友人が見に来たりと、周囲も特別と感じている試合です。長くプロ野球選手をやっていても一度も縁がない人もいる晴れ舞台。後輩たちは、それを意気に感じて、思い切りプレーしてほしいですよね。

「この前は2回負けてるからね」

「忘れ物」と言えば、先日こんなことがありました。日本シリーズ用の練習を神宮球場の横のコブシ球場でやり、練習が終わったのでクラブハウスに帰ろうとしたら石川雅規さんと一緒になりました。「俺も帰るよ」というので2人きりで歩いたんです。カメラを回すでもなくただ歩いた僕ら。なにげなく「石川さん、日本シリーズがんばってくださいね」と言うと「いや、俺、この前は2回負けてるからね……」とポツリとつぶやきました。

 代打で1回出ただけの僕の記憶は実に曖昧で、その場で理解できず「そうでしたっけ?」と返したのですが、たしかに15年の日本シリーズ、第1戦と第5戦、先発した石川さんはいずれも負け投手になっています。

“絶対やってやる”気概が溢れていた石川雅規

 しかし、そう言いながらも石川さんには「絶対やってやる」という気概が溢れていました。日本シリーズの借りは日本シリーズでしか返せない。僕は日本シリーズで負けましたが、石川さんにはまた取り返すチャンスがあるのが羨ましい。

 石川さんには6年前の大きな「忘れ物」を取ってきてもらって、今シーズン4回目の胴上げを見せてほしいと思います。

 最後に、

 山崎、次は絶対に飛ぶなよ!

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