「仮想通貨モニタリングチーム」の発足
こうした経緯があったから佐々木は7月、総括審議官に栄進したものの、関心は仮想通貨に向いていた。法改正して制度として導入してしまった以上、きちんと対応しないと金融庁に跳ね返ってくる、と思った。森に「これは全庁的な問題にしてほしい」と掛け合って、佐々木が主導して仮想通貨に対処することになった。総括審議官に就任早々の7月、監督局、検査局、監視委、財務局、さらにサイバーセキュリティーの専門家や弁護士、会計士ら30人余を集めた「仮想通貨モニタリングチーム」を発足させた。まずは地方財務局で進んでいた登録の仕方の見直しだった。「従来のやり方だったら一定の書式の書類を提出してもらい、それに対する書面審査のようなものだったんです。それを免許制や認可制とまではいいませんが、かなり厳しい事前審査に改めました」(佐々木)。
まずは業者の役員に面接してビジネスプランなどをヒアリングし、リスク管理の基本的な考え方を聞き出す。そのうえで利用者の情報管理やシステムの強度、マネロン・テロ資金供与対策などを書面や具体的な根拠を持ってこさせて書類審査する。さらに金融庁や財務局の係官が当該企業を訪問して現場の管理態勢を目視して確認する、というプロセスにしたのだ。
経営者はまるで学生サークルのノリ
金融庁の検査官を実際に仮想通貨業者のオフィスに行かせると、案の定、気になる点が続々と出てきた。マネロンやテロ資金対策に対する基本的な知識がない。システムが脆弱でハッカーに簡単に攻撃されそう。経営者はまるで学生サークルのノリで緊張感が乏しい。いくつかの業者には佐々木も会ってみた。ノリの軽さに啞然とする。
「顧客から預かった資産で問題が起きたり、システム障害を起こしたりすると、日本の社会は許容度が低いよ」
「わかっています」
「失敗すると袋叩きにあうよ」
「はい、大丈夫です」
万事こんな感じだった。「はい、はい」「よくわかりました」とは言うものの、本当に理解しているかどうかは疑わしかった。
「とてもこんなところを登録させられないなと思うものの、登録制なので登録させないわけにもいかない、かといってあんまり変なのを登録させるわけにもいかない。だからそれなりにかなり精査したんですよ」
代表的な仮想通貨ビットコインの価格は4月に十数万円だったのが秋には100万円を突破していた。人気が爆発するなか、登録希望の業者は40、50社あったが、第一弾として登録できたのはGMOコインやマネーパートナーズ、ビットフライヤーなど10社だった。12月にはさらにDMMビットコインなど5社を登録させることにした。希望していた業者の中からかなり絞り込んだのは、「これはまずいな」という会社を意識的に排除した結果だった。