カラフルなワイシャツに、足元はデッキシューズ。ジムで鍛え上げた上半身にスポーティな短髪……。金融庁のなかでひときわ目立つ存在として知られていた佐々木清隆氏は、「異能の官僚」として、ライブドア・村上ファンド事件や東芝の不公正ファイナンスなど、日本で発生した様々な金融犯罪を追い続けてきた人物だ。

 朝日新聞記者の大鹿靖明は、そんな佐々木氏のこれまでの数々の挑戦を書籍『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』(講談社)にまとめた。ここでは同書の一部を抜粋し、仮想通貨流出事件発生当時の現場の様子を紹介。約580億円の仮想通貨流出が発覚する前後、金融庁ではどのような対策が取られていたのだろうか……。(全2回の2回目/前編を読む

◆◆◆

ADVERTISEMENT

仮想通貨業者の登録は財務局

「キミ、この会社、知っている」。佐々木は、金融庁の金融会社室長に対して、監視委がずっとウォッチしているR社が仮想通貨ビジネスに参入しようとしていることを教えた。

「いや、全然知りません。仮想通貨業者は財務局に登録することになっているので、関東財務局の所管になります」

 また財務局か──。金融や証券の世界では、当局が審査して大丈夫なところにお墨付きを与える免許制が一般的だったが、金融ビッグバンなど規制を緩和する動きが進み、登録しさえすれば誰でも容易に参入できる登録制が採り入れられるケースが増えた。登録の審査はあくまでも形式的なものにすぎず、それを利用して悪意を持った業者が参入し、市場を混乱させる事例は次第に増えていった。AIJ投資顧問もアーツ証券もそうだった。

©️iStock.com

「なんで、こんなハイテクなイノベーションの最先端の世界なのに、財務局に登録なの? 最先端のテクノロジーは即グローバルだよ」

「登録制だったので財務局、ということになりました」

 免許制なら本庁だが、登録制なら地方の出先の財務局という機械的な振り分けで、そうなったようだった。

 これはまずいな。担当室長とのやり取りを通じてそう思った。

 まだ監視委事務局長だった17年5月ごろ、佐々木は長官の森に「仮想通貨交換業者をこのままにして大丈夫か」と聞かれた。長官は佐々木と同じ問題意識をもっていた。「何らかの対応をしないと、やばいですよ。こんな、従来型の登録の仕組みで、財務局が書類審査だけでパスさせて大丈夫ですかね。後で財務局も管理が大変になりますよ」と佐々木。森は独自のルートで情報を集めていて、関心を持って佐々木の話を聞いていた。