土地所有者を騙る女性らに騙された積水ハウスが70億円の売買契約を結び、結果的に55億5900万円の損害を計上することとなった積水ハウス地面師事件。

 事件当時、積水ハウスの営業次長として、取引を最初から最後まで担当してきた小田氏は、土地売買取引時に行われる、取引相手が地主本人であるかどうかの確認作業を怠っていた。そして、事件後の積水ハウスでは、取引の責任が重い者ほど厚遇されているという証言がある。こうした事実が意味することとは……。

 ここでは、ライターの藤岡雅氏の著書『保身 積水ハウス、クーデターの深層』(角川書店)の一部を抜粋。不可解な事件のあらましを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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法務局からの登記却下

 実は、小田は6月1日に、本決済で約49億円を支払ったあと、内容証明を送ってきた本物の海老澤佐妃子(編集部注:本物の地主の一人)の弟とその弁護士と面談している。内容証明を送った本人たちと面会できたわけだが、それでもなお、彼らを本物の地主とは認めなかった。

 6月1日付で地主たちは、海老澤の名義で、5通目となる内容証明を送付している。

「大崎警察署で本日(筆者注:積水ハウスの顧問弁護士らと)面談したところ、売買残代金の決済が行われていること及び引渡がなされたことを聞き、驚いております」

 それでも小田は、羽毛田(編集部注:地主の女性を演じていた女性)が提示したパスポートなどの書類を見直すだけで、本物の海老澤の関係者から裏付けをとろうとはしなかった。結果、預金小切手の保全が図られることもなかったのである。

 結局、警察に被害届を出したのは、法務局から登記却下が伝えられた後だった。

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 調査対策委員会が、地面師事件の一連の流れを把握した時、小田に強い疑念を抱いたのも無理はない。また東京マンション事業部長やマンション事業本部長の三谷にも、疑いの眼差しを注いだ。調査報告書にはこうある。

 初期情報の入手時点で(中略)、小田は、公正証書の入手のみをもって生田(編集部注:地面師グループと積水ハウスの仲介役)を信用してしまい、その結果、生田と偽海老澤との出会いや信頼の根拠となる関係性さえ、全く不明のまま、短絡的に所有者も契約も信用できると判断されていた。そのため、以後は、何らの疑いを差し挾まないまま当社は契約獲得を急いでいる。このことは、高額の土地取引を直接担当する者としては、明らかに慎重さを欠く判断であり、その過失は大きいと考えざるを得ない。

 

 また、マンション事業本部長三谷、東京マンション事業部長●(筆者注:原文は実名)、同技術次長●を含む幹部も、小田らの判断に寄り掛かり、取引先の信用力を確認する発想がほとんど見られないこと、も非常に大きな問題である。また、偽海老澤の本人性への疑問が余りにもあっさりと解消されている点については、全く理解に苦しむところである。

 

 本報告書作成時において、当委員会の議論の中では、生田と小田の間には、何か個人的で不適切な関係が存在していたのではないかとの疑義さえでた。勿論、そのような証拠が何ら得られたわけではないが、生田への過度の信頼や偽海老澤と同人の関係性への関心の薄さなど、その経緯を振り返るとき、当然そのような疑いが生じる。

  調査対策委員会は、単に騙された事件ではないと、強く警戒感を抱いたわけだ。