本社法務部の妨害
調査報告書を見るに、調査対策委員会が東京マンション事業部の実態まで調べを進めた様子はない。一方で、調査対策委員会の調査に関わった人物からは、次の証言が私に寄せられている。
「調査対策委員会の委員長・篠原祥哲さんは、当初から本社法務部の妨害を受けていると感じていた。事務局についたのは、阿部の腹心でもある法務部の吉本継蔵(現常務執行役員)だったからだ。篠原さんはこう言っていた。『我々の行動が経営陣に筒抜けだ』と。そこで篠原さんは、調査対策委員会のメンバーにもう1人、補助員として外部の公認会計士を任命した。資料などを隠蔽させないためだ。
一方で、篠原さんは、地面師事件で積水ハウスの誰かが汚職に手を染めたということまでは、調べる必要はないと考えていた。ヒアリングや稟議書などからうかがえる全体像から、社長の阿部に経営上の『重い責任がある』ことは、根拠がそろっていたからだ。
取引の責任が重い者ほど面倒を見られている
そこで、東京マンション事業部や海喜館に関するメールまで、調査対策委員会は厳密に精査をしていない。それを担当したのは、結局、法務部の吉本だった。よって東京マンション事業部の実態までは、解明するに至らなかった。篠原さんは、その後『まさか阿部がクーデターを起こすとは……』と、悔やんでいた」
事件の発覚後、不可解な人事が行われていたという、社員たちの証言もあった。2017年12月に、マンション事業本部長の三谷は責任をとって会社を去り、詐欺を見抜けなかった法務部長の中田と、不動産部長の黒田はその職責を解かれた。翌年、2人は執行役員も退任して会社を去る。警告を発し続けていた黒田にとっては不満が残る人事だっただろう。ところが、黒田に比べて三谷と中田、そして小田はなぜか、その後も厚遇されているという。社外役員の1人が言う。
「マンション事業本部の責任は最も重いが、三谷には退職金が支払われ、その後の仕事についても何らかの斡旋があったと聞いている」
また、複数の幹部が私にこう証言した。
「小田は東京マンション事業部から、本社監査部に異動になった。監査部の同僚が言うには、小田には全く仕事をさせられないので、部内からも不平が漏れていた。しかも、小田が関西で住んでいたマンションの住所は社内でも極秘扱い。マスコミに接触させないようにしているともっぱらの噂でした。法務部長だった中田は、やがて子会社のアルメタクスに再就職した。かたやリスクを警告した黒田さんは、田舎の福岡に帰り、その後、自分で事業を立ち上げて生きている。
おかしいと思いませんか。この取引の責任が重い者ほど、阿部さんはその後の面倒を見ているわけです」
なお、小田は2019年の秋ごろ、積水ハウスを退職している。
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