手付金の14億円を支払った後にも確証を持てず
株主代表訴訟に証拠提出されている小田と司法書士のメールのやり取りを見てもらいたい。
契約が結ばれ、手付金14億円が支払われたのは4月24日だったが、その後、小田は司法書士から1通のメールを受け取っている。時刻は4月29日21時47分である。メールにはこう書いてある。
積水ハウス株式会社
東京マンション事業部
小田部長(ママ)様
いつもお世話になっております。
先日のご相談ですが、まず初めに、先般申請した仮登記は謄本未入手ですが、手続が完了しておりましたことをご報告申し上げます。
よって提出した書類に不備はなかったと法務局が判断したことになります。
ただあくまで形式的審査の結果にすぎませんので、本人性を疑うのならご本人だけが保有する情報・書面を提示できるかより踏み込んだ調査をする必要がございます。
メールの趣旨は、契約後の仮登記が完了したことを伝えるものだが、「本人性を疑うのなら……」という記述は不可解だ。この段階では、まだ地主から内容証明も届いていない。つまり、小田は書類による本人確認をして契約したにもかかわらず、地主を疑っていたことになる。手付金の14億円を支払った後にもかかわらず、取引相手の地主の真贋について未だ確証を持てずにいたのだ。普通の担当者なら、心穏やかではないだろう。
マンション購入代金としてたまたま一部を回収
ところが、東京地裁に提出された小田の陳述書には、地主を疑っているような記述は見当たらない。しかもこんな軽口まで叩いている。
「契約締結と仮登記が終わり、私はひとまず安堵しました。資産運用の一環として弊社のマンションを購入いただけないか営業をかけてみようと思っていました」
実際にマンション売却の交渉は行われ、「グランドメゾン江古田の杜」の数戸分を海老澤(偽者)に売却する契約が結ばれている。このマンションの売却は11戸に及ぶという報道もある。その結果、マンション代金の約7億5000万円分も小切手化され、本決済時に地面師たちへいったんは手渡されたが、その場でマンション購入代金として回収されている。積水ハウスが契約時に支払った14億円と本決済時に支払った49億円の合計は63億円だが、被害額が55億5900万円にとどまったのはこのためだ。
「東京マンション事業部は詐欺だと知っていた」?
しかし、契約後すぐに本人性を疑っていた人間が、こんな取引を持ち掛けることなどあり得るのだろうか。
その解の一端は、東京マンション事業部の元社員たちからもたらされた。また、私は東京マンション事業部のことをよく知る積水ハウスの幹部とも接触できた。彼らはみな、完全匿名を条件に私の取材に応じている。素性が明らかとならないように、以降は、彼らの話を総合し、私との会話形式で再現したものである。
「当初からこの取引は怪しいと調査対策委員会も疑っていた。調査対策委員会の見解を、どう感じますか」
「妥当だと思います。というのは、実は東京マンション事業部は、取引相手が詐欺師だということを契約前から知っていましたから」