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見ず知らずの人にモバイルバッテリーを渡すわけにはいかず…

 彼はパキスタン出身で、これからビジネスで東京に向かうところだったが、充電器とモバイルバッテリーを忘れてしまったようで、「このまま充電が切れると非常に困る」ということだったので、「私は品川駅で降りる予定なのでそれまでなら充電をさせてあげられるが、(防犯上、見ず知らずの人に)モバイルバッテリーを渡すわけにはいかないので、私の手元で充電をする。品川駅には●時●分に到着するので、それまでに私のところにスマートフォンを回収しにきてください」と説明すると、男性は「ありがとう!」と言い、友人と合流するために喫煙スペースへと向かっていった。

気付いたときには時すでに遅し

「これで作業に集中できる」と思って仕事を再開していると、5分ほどで先ほどの男性が「ハ~イ」と笑顔で戻ってきて、私の隣の席にどっかりと座った。「えっ」と思って隣にいる男性の方へ顔を向けると、男性は先ほどまでの不慣れな日本語からは信じられないほど流暢な関西弁で「どこに住んでるん? 結婚してる? 彼氏は? 今日どこ行くん? あ、品川か(笑)。仕事? 仕事何してるん? 俺も今日東京にいるけど仕事何時に終わる? 夜空いてる? 今日の仕事って男と会う? その男って信用できる人なん?」と矢継ぎ早に質問を重ねていく。

「ナンパかぁこれ……」と気付いたときには時すでに遅し、男性はリクライニングを倒し、私の膝元で充電されている自分のスマートフォンを操作しながら完全にくつろぎ始めている。感染対策を徹底している身としては男性がマスクをしないまま顔を近づけて話しかけてくるのがどうしても気になってしまい、「マスクしないの?」と聞くと、男性は「マスク嫌いやねん」と言い、今度は「てかTikTokやってる?」と話題を変えた。

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冷めてゆくティーラテを眺めながら

 どこで間違えたんだろう。窓際に置いたティーラテが口をつけられないまま冷めてゆくのを、原稿を書くために開いたPCの画面がスリープしたままになっているのを、自由席分の料金で私の隣の指定席に居座り続ける男が世間話をするのを眺めながら、新幹線は名古屋駅を後にして東へ進んでいく。