いずれの役も現実にはありえない人物だが、長瀬が演じると妙なリアリティがある。それは彼が、セリフなどよりもまず身体ありきで演技をしているからではないか。たとえば、劇中で演じる人物が痛がっていたら、その痛みが見ている側にもダイレクトに伝わってくるようなところに俳優・長瀬智也の本質を感じるのだ。
ジャニーズ在籍中最後の主演作として、今年放送された『俺の家の話』では、こうした彼の特質がより発揮されていた。同作で長瀬が演じたプロレスラーは、かつて自分を勘当した能楽師の父親(本作でも西田敏行が演じた)が倒れると体当たりで介護することになる。
「交通事故を20回くらい経験した体」に
この役のため、彼は半年以上、体を鍛えたという。それもガチガチに筋肉をつけるのではなく、プロレスラー独特の脂肪のついた体をつくらねばならず、相当苦労したらしい。
放送前のインタビューでは、《実際に僕は練習を経験させていただいて、プロレスの奥の深さに圧倒されています。楽なものは何一つない。練習なんて、一日に交通事故を20回くらい経験したような体になるわけですから。もう痛いなんてもんじゃない》と語っていた(※1)。
痛みを含め、そうした実感が前提にあるからこそ、彼の演技にはリアリティがあるのだろう。それは昔から一貫している。かつて、アニメ映画『ストレンヂア 無皇刃譚(むこうはだん)』(2007年)で声優に挑戦し、「名無し」という浪人を演じたときには、《映画のなかで最も共感したのは、斬り傷を負った「名無し」が、敵対する剣士に「痛みを取るか、(痛み止めの)薬を飲むか」と問われて、「(薬は)要らない。痛みはあったほうが生きてる気がする」と答えるところ。このセリフを読んだ時、まさに同じ感覚だと思いました》と話していた(※2)。
こうした感覚を、長瀬は趣味のバイクにたとえてもいる。芸能界に入ってからも、地元の仲間と古いボロボロのバイクを自分たちの手で直しては、よく乗り回していたという。いまなら、ボタンひとつでエンジンがかかって、すいすい走るバイクがいくらでもあるのに、なぜわざわざ扱いの難しい古いバイクに乗るのか? 彼はこう説明する。