一躍時の人となったのは朴槿恵前大統領時代の2013年度の国政監査だった。朴前大統領が大統領に当選した大統領選時、国家情報院が世論操作のためにネットへ不正な書き込みを行った疑惑を捜査し、公職選挙法違反により当時の元世勲国家情報院長の拘束令状を申請したが、法務省の反対に遭い頓挫した。
これを「上(法務省)からの指示は違法だった」と発言。当時言い放った「人には忠誠を誓わない」という言葉は今も尹候補を象徴するものとして語り継がれている。
曺国元法相のスキャンダル追及で、文政権と対立
この後、地方に左遷されるも朴前大統領の国政スキャンダルが起きると16年、特捜のトップとして返り咲いた。文大統領の宿敵といわれた李明博元大統領を起訴に持ち込み、李、朴槿恵政権時代の“積弊清算“を次々と行った当時は、「積弊清算の象徴」と持て囃された。
その功労から17年5月には異例のごぼう抜きでソウル中央地方検察庁長に任命。続いて19年7月には検察トップの検事総長に大抜擢された。しかし、そんな現政権との蜜月も束の間。翌8月、文大統領が新しい法相に指名した側近、曺国大統領府民情首席秘書官(当時)に数々の不正疑惑が浮上すると、検察はさっそく捜査に乗り出した。ついには曺国元法相夫人を起訴すると、この時から尹候補は完全に与党の“敵”となった。
ちなみに、曺元法相夫人は、娘を不正に大学に入学させた「私文書偽造」などにより、控訴審でも懲役4年が言い渡され、上告。今も係争中だ。
当時の貧しさから立身出世したことをクローブアップ
「秩序を乱した張本人・尹錫悦へ祝辞は送れない。まず疑惑から吐き出せ」(ハンギョレ新聞、11月5日)
「国民の力」が尹候補を選出した11月5日、与党「共に民主党」はこんなコメントをだした。前出の記者は、「与党はこの間、尹候補を相手にした戦い方を研究してきたと公言していましたから、内心では待ってましたとほくそ笑んでいるのではないでしょうか」と言う。
その「共に民主党」の大統領選候補者は李在明前京畿道知事だ。
李候補の人気を語るのにコリアンドリームともいえるその生い立ちは欠かせない。自らを「土のスプーンともいえない無のスプーン」(両親の所得によって金・銀・土[泥]に分かれる韓国のスプーン階級論で、土のさらに下という意味)出身と話す李候補は9人兄弟の7番目として生まれ、小学校を卒業するとすぐに工場へ働きに出された。父親は市場の清掃員、母親は畑仕事や薬売りなどをして糊口をしのいでいたという。
当時の写真を与党議員はFacebookにアップしたが、制服を着た小学生の頃の尹候補の写真と並べ、李候補の写真はわざわざモノクロームに加工して、当時の貧しさから立身出世したことをクローブアップしていた。