なぜか「懐かしさ」を感じる歌声
世代どころか時空の違いすら感じた中島美嘉。昭和のオバサンには到底手の届かない新種のはずなのに、なぜか拭いきれない懐かしさ。
彼女の歌を聴くと、日本語を丁寧に置くように歌うからなのか、唱歌を聴いているような感覚になる瞬間が突然くるのだ。「小さな木の実」や「遠き山に日は落ちて」を生まれて初めて聴き、子どもながらに「良い歌やあ」と感動したときと似た心地よさがドッと押し寄せる。
だから2004年に「月の沙漠」と「朧月夜~祈り」を収めたミニアルバム「朧月夜~祈り」が発表されたときは、ビックリした。「あなたの中島美嘉に感じるデジャヴ、知ってた!」と中島美嘉から直接言われたような気がしたのだ。
葉加瀬太郎とのコラボレーションだったので「中島美嘉にこの曲を歌う機会を作った葉加瀬太郎もナイスーッ!」と歌の情緒とはあまりにも遠いハイテンションで聴いたことを覚えている。
上質の絹が風に揺れるイメージで、音がふわーっと耳から脳に広がっていく。葉加瀬の伸びやかなバイオリンと絡む中島美嘉の声は静かに呼吸をしているようだ。夜聞くとたまらない! 今もアップルミュージックで聴けるので、ぜひ、月の美しい日に聴いてほしい。
ふわふわとしばらく浮遊してから、ゆっくり音が耳に落ちてくる。そして静かに溶けていく声。こびりつかないからこそ「桜色舞うころ」や「雪の華」「ノクターン」など、静かに消えていくシチュエーションの歌にものすごくハマるのだろう。
「GLAMOROUS SKY」「一色」などのロックを歌っても同じ。虹や稲妻、花びら、約束……。四季や心の移り変わりを感じられて、漢字で「綺麗」と書きたくなる。
ユーモアとエネルギーを感じる女優業
歌ではかぐや姫妄想をしてしまうほど、儚くミステリアスなイメージが強い中島美嘉。ところが女優業では一転生々しくパワフルなエネルギーを感じさせる。
映画「NANA」のナナは、マンガだから成り立つと思っていたナナ役を「実際にいそう」と思わせ、ドラマ版「私立探偵濱マイク」でも、生意気だけどしっかり者の妹、茜を好演。彼女の存在が不思議なリアル感を醸し出していた。
ゲスト出演ではあったが、「表参道高校合唱部!」のアーティスト・カナ役もとても良かった。音楽を愛する理解者感がなんとも自然で、えみり先生を演じた神田沙也加と、画的にも好対照。続編があるならもう一度出てほしいと思っていたが、待てど暮らせど続編のお知らせは来ず、叶わぬ願いとなってしまった。
シリアスだけでなく、「うぬぼれ刑事」の里恵ようにユーモラスな演技も上手。歌手のときには見られない陽の彼女が、ドラマで見られるのは本当に楽しい。そもそもトーク番組を見ると、中島美嘉さん、とても面白い方だ。これからもいろんな役柄を演じてほしい。