がんと診断されたら、誰だって不安になるはずです。そんなときは、気持ちが落ち着いてからでいいので、闘病記を読んでみてはいかがでしょうか。病気と向き合う勇気をもらえるかもしれません。
医療現場を取材する仕事柄、闘病記をたくさん読んできましたが、今回は「芸能人」の闘病記を選んでみました。ふだんは遠い存在ですが、人となりをテレビで見て知っているだけに、かえって深く共感できるかもしれないからです。
誰しもがんの前では冷静さを失い、死を恐れる一人の人間にならざるを得ない
まずは、「膀胱がん」を患った竹原慎二さんの『見落とされた癌』(双葉社)。後悔、不安、恐怖、怒りなど、がん患者の多くが経験するだろう感情の揺れ動きを、包み隠さず描いています。竹原さんと言えば、元プロボクシング・世界ミドル級チャンピオン。
そんな腕力に物を言わせてきたように見える人物でも、がんという病の前では冷静さを失い、死を恐れる一人の人間にならざるを得ないことを思い知らされます。この本に出てくる民間療法や免疫療法を推奨はしません。しかし、なんでも徹底的に取り組む不屈の精神は、さすがチャンピオン。ホノルルマラソンを走るまでに回復した姿に、励まされる人も多いのではないでしょうか。
がんで手術を受けると、生きることと引き換えに、臓器や機能を失う場合があります。竹原さんは膀胱を切除して、尿を溜めるために小腸の一部を代用する「新膀胱」になりました。歌手として一番大事な声を捨て、生きる道を選んだのが、ロックバンド・シャ乱Qのボーカルで、モーニング娘。などのプロデューサーとして知られるつんく♂さんです。
著書『「だから、生きる。」』(新潮社)によると、声の変調に悩まされていたつんく♂さんの病気は、残酷なことに「喉頭がん」でした。放射線と抗がん剤を併用する治療が功を奏し、一時は「完全寛解」と診断されたものの、すぐに再発。声が出ないどころか、窒息しそうなほどの息苦しさに襲われ、最終的に声帯を摘出する選択をします。
その彼の「生きる」という決断を支えたのが、猛然とがんの勉強をして夫を支えた奥様やお子さんの存在でした。手術を受ける直前に、自分で発することのできる最後の声で子どもたちに語りかけ、妻の名前を何度も呼んだというエピソードは、胸に迫るものがあります。