今も「ナチス思想を監視する団体」とは?
前述の小林賢太郎氏のコントが発覚したときも、2016年にアイドルグループ「欅坂46」がライブでナチスの軍服に酷似した衣装を着たときも、アメリカのユダヤ人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)」が即座に謝罪を求めました。後日、両者ともに謝罪しています。
この団体に対して日本の中には、「なぜ過去のことを問題視するのか」「なぜ外国のことまで口出しするのか」といった声があります。そうした意見を持つ人々は、この団体が生まれた背景を知らないにちがいありません。
ホロコースト当時の記録保存や、世界の反ユダヤ主義の監視を行うのが団体の目的です。設立者のサイモン・ヴィーゼンタール氏の活動の原動力はとても悲しいものでした。
戦後に生まれた彼の一人娘・ポーリーンが小学生だった1950年代のこと。学校から帰ってきた彼女は父親のヴィーゼンタールに尋ねました。
「お父さん、同じクラスの子達にはみんな、おじいちゃんやおばあちゃん、おじさんやおばさんがいるのだけれど、どうして私には、親戚がいないの?」
父親はこの質問に答えることができず号泣してしまいます。この娘の言葉をきっかけに、一生をかけて加害者への責任を追及していくことを改めて決断したといいます。
いまだ解消されぬ日本とドイツ「価値観のズレ」
筆者は日本が大好きですが、「ホロコースト」に対する価値観のズレについては時折驚くことがあるのも事実です。あれは忘れもしない2014年の年明け。近所を散策中、コンビニに行ったら、『眠れなくなるほど面白いヒトラーの真実』というタイトルの本が目に留まりました。嫌な予感とともにページをめくると、出るわ出るわ「ナチスへの称賛」が。
内容をかいつまんで紹介すると、「ヒトラーは色々と問題視されがちだけど、素晴らしいところもあった」というものでした。彼の経済政策や、少子化対策を褒め称えているわけですが、そもそもそれらは戦争を目的としたものでした。にもかかわらず、本でそのことには一切触れていません。
さらに許しがたいのは、ナチス政権のユダヤ人虐殺が実際には計画的なものであったにもかかわらず、本ではそのことに触れず、「ドイツからユダヤ人を追放したい」という考えがエスカレートした結果、偶発的に起きたものであったかのように書かれていたことです。幸い、この本はドイツやイスラエルなど各方面から抗議があったため発売後に早々と回収されました。
残念なことに、こうした歴史があるにも関わらず、いまだナチスを軽く扱う日本人が絶えません。ホロコーストについて「昔のことだから、もういいじゃないか」と言う人にはこう問いたいです。もし被爆者や拉致被害者について同じように言われたら、どう思いますか。