「退職勧奨」を無効化する3つの方法
ここまで、企業の立場から退職勧奨について見てきました。では、社員の立場から、退職勧奨に屈しないためには、どうすれば良いのでしょうか。
もちろん、しっかり業務に取り組んで成績を上げ、「この会社に残って欲しい」と思われるのがベストの対策ですが、仮に無能であっても取るべき対策があります。
第1に、退職勧奨の理由となるエビデンスを残さないようにします。まず、日頃から不祥事など決定的なエビデンスを残さないよう細心の注意を払います。また、営業成績のような定量的な評価についても、「市場環境が悪かった」「顧客側の対応に問題があった」などエビデンスとしての妥当性を揺るがせるような情報を収集しておくと良いでしょう。
第2に、日頃から社内外の仲間を増やしておきます。仲間がいると、退職勧奨を受けた際に精神的な支えになりますし、そもそも仲間がいるということ自体が、人事部にとって「ちょっと手を出しにくいな」というプレッシャーになります。
第3に、実際に退職勧奨を受けたら、一人で対応しようとせず、組合や弁護士に相談すると良いでしょう。管理職から「ちょっと話が……」と別室に呼ばれて退職勧奨の面談だとわかったら、「また後日」といったん打ち切ります。そして、組合や弁護士に相談し、後日面談に臨みます。面談では必ず録音をしましょう。
という話をある経営者にしたら、「まったくその通りなんだけど、そういうしっかりした対応ができる社員は、元々成績が良いので、退職勧奨の対象にならないのでは?」(食品・副社長)と言われました……。
退職勧奨が行われない日本は「異常な国」
ところで、世界では退職勧奨が行われているのでしょうか。全世界の事情はわかりませんが、今回調査した外資系2社がいずれも「実施している」と回答した通り、アメリカでは退職勧奨が普通に行われています。
アメリカでは、定年制は年齢による労働者の差別に当たるとして原則禁止されています。しかし、企業は年齢に関係なく成績不良社員を解雇することができます。解雇の前段階で、退職勧奨をよく行います。
日本では、定年制があり、定年に達したら全員がクビになる一方、定年前の解雇は厳しく制限されています。そして、今回明らかになったように、退職勧奨を実施している企業は限定的です。
この日本の状況を知人のアメリカ人(コンサルティング会社経営)に伝えたら、目をまん丸にして驚いていました。
「どんなに働きが悪い社員でも解雇できない、退職勧奨もしないって、いったい日本の経営者はどうやって社員を働かせているんだ? ある意味スゴイけど、俺は、絶対に日本企業の経営者になりたくないな」
現役時代に退職勧奨の制度を導入した経験を持つある日本の元経営者は、退職勧奨に及び腰な日本企業の状況について、次のようにコメントしていました。
「退職勧奨を導入しようとすると、社員から経営陣に対し『じゃあ、お前たちはどうなんだ、1億円もらうに値する仕事をしているのか?』という話になる。多くの経営者は、自分たちに跳ね返ってきたら困るから、制度導入を躊躇しているんじゃないですか」
退職勧奨に日本人はたいていネガティブなイメージを持ちます。ただ、社員の働きがどんなに悪くても解雇どころか退職勧奨すらしないというのは、世界的には異常なこと。日本で退職勧奨が普及していないのは、経営者と労働者の馴れ合いと考えることができそうです。