「自己を語ることほどぼくにとって退屈な行為はなかったのですが、この本を書いて、たまにはこういうのも悪くないな、と思いました」
『がきデカ』に代表される作品群でギャグ漫画の歴史を書き換えた伝説の漫画家・山上たつひこさんが、初の自伝『大阪弁の犬』を上梓した。
「文章に誠実に向き合っていなかった昔の自分を叱りつけながらの加筆・改稿でした。感傷はできるだけ排して書いたつもりですが、記憶を辿るうちどうにも気持ちをコントロールできなくて往生しました。あの頃、無神経に見過ごしていたものが今になって見えてくる。懐かしいけど、恥ずかしいよ。井上陽水の『人生が二度あれば』の心境です」
天才漫画家がまだ何者でもなかった青春時代、創作者として徐々に評価されていくことの喜びと戸惑い―――山上ファンならずとも漫画にいささかでも興味があるものならば胸を打たれること必定である。
「いつか『喜劇新思想大系』を小説で書きたいと考えています。主人公の逆向春助の生活、生き方を言葉で掘り下げていけばどんな世界ができるのか、ぼく自身とても興味があります。それは、たぶんぼくのもう一つの『自伝』になるはずですから」