超ド級の新聞読み比べ物件だった。「日馬富士、貴ノ岩に暴行」事件である。
横綱(日馬富士)はどう償うか。相撲協会はどう対処するか。本来ならこれで終わる話だが、新聞読み比べという点では他にも読みごたえがあった。
“日々、情報戦がおこなわれていた”のである。
アイスピックを持っていた人物の食い違い
例えば「アイスピック」について。まずスポーツ報知。
《日馬富士が暴行を加えた際、カラオケのマイクや端末機、灰皿まで振りかざしたが、アイスピックも含まれていたという証言がある。関係者によると、ビール瓶と素手で殴打した後も怒りは収まらず。側にあったアイスピックを持ったところで、同席者が慌てて止めに入ったという。》(11月16日)
翌日の毎日新聞。
《関係者によれば「貴ノ岩がアイスピックで反撃しようとしたらしい」という情報もある。 》(11月17日)
新聞によってアイスピックを持っていた人物がちがうのだ。
つまり証言者が「たくさんいる」。互いの陣営に有利になるような情報戦がおこなわれていたと考えればわかりやすい(「ビール瓶」も同じ)。
貴乃花親方への強い視線
情報戦というキーワードで今回の事件を振り返ると、第一報は11月14日のスポーツニッポン。1面で「ビール瓶で殴打 日馬 暴行疑惑 貴ノ岩頭蓋骨骨折」。ここからすべてが始まった。
しかし日馬富士に向けられた視線が、翌日になると被害者の師匠である貴乃花親方にいく。とくにタブロイド紙や夕刊紙。
「貴親方 協会に反乱か」(夕刊フジ 11月15日)
「貴乃花親方の陰謀」(日刊ゲンダイ 11月15日)
「日馬暴行全容と貴親方の不可解」(東スポ 11月15日)
「夕刊フジ」「日刊ゲンダイ」「東スポ」はそろって貴乃花に焦点を変えた。事件発生直後に警察に被害届を提出していたが、後日の協会の事情聴取には「わからない」と答えた貴乃花。その謎について3紙とも「協会の現体制への不満」「来年の理事選を見据えての行動」という論旨だった。