昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/12/08

ビジネス思考が持つバイアス

 政治や公共の政策では、公正さが求められる。腐敗や汚職が蔓延している国では、人々の福利は疎かになる。一方ビジネスの場合、人脈によって有利不利が分かれるのは当たり前だ。法の範囲であれば、競争相手を出し抜くためには何をしてもよい。まさに先述の「3歳児レース」なのだ。むしろ最低限の公正さを担保するための法規制でさえ、ビジネスの観点からみると目の上のたんこぶとなる。そのような価値観こそが世界の全てだと思っている人間からみると「規制改革」は基本的に支持するべきだし、多少の不公正は気にならなくなる。それらは「3歳児」の行動を制約してしまうからだ。

「NewsPicks Book」(2017年4月~2020年6月)元編集長の箕輪厚介氏 ©文藝春秋

 従って、「NewsPicks系」の人たちは、全てが新自由主義を支持しているとはいえないにもかかわらず、自然と新自由主義的価値を内面化することになる。アメリカの経済学者デヴィッド・ハーヴェイは、新自由主義の本質を「縁故資本主義」と定義した。規制なき自由競争で勝利するのは、結局のところ「コネのある者」なのだ。

 野心ある若者が最も熱心に行うのは、今も昔も人脈の形成だ。現代では、人脈作りはプラットフォームによって支援されている。たとえばオンラインサロンもその一つだろう。オンラインサロンに入るメリットとして宣伝されているのは、サロンのオーナーたるインフルエンサーに接近できることというよりもむしろ、サロンメンバー同士の人脈形成なのだ。

 芸能人でいち早くオンラインサロンをつくった西野亮廣は、この性質を理解し、うまく利用しようとしている人物の一人だ。彼の説明によると、西野はサロンメンバーに自身の行っている事業に関連する仕事をまわしているというのだ。

西野亮廣著『革命のファンファーレ』幻冬舎、2017年

《やっていると、『スジがいいなぁ』という人がチョコチョコ出てくるので、そういう人に積極的に仕事を振るようにしている。

 外部に委託するよりも、もともと趣味が合う人が集まっている人の中から選んだ方が、その後の『いや、作りたい世界観はその方向じゃなくて…』といった余計な軌道修正(ロス)が少なくていい。》(「超エンタメ集団を作る」西野亮廣ブログより)

 たとえ月々払う会費が4000円だろうと、数十万のビジネスが成立するなら、十分にオンラインサロンに加入するメリットはある。西野亮廣のサロンというと、たとえばメンバーに西野の映画のチケットを大量に買わせて、それを転売させるような「やりがい搾取」的な側面が注目されやすいが、一方ではこうしたコミュニティでの実利の分配という機能も担っている。

 当然ながら、このような仕事の分配そのものが悪いというわけではない。たとえば親の階級で人脈が決定される状況よりは、オンラインサロンを活用した人脈作りはささやかだし、個人の努力の賜物ということもできる。しかしそうした文化は、公共についての思考をますます阻害することになる。社会に問題があっても、「自助」と「共助」で事足りる。「公助」に関しては積極的に求めることはない。せいぜいビジネスとして国を利用するに留まるのだ。