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NewsPicks系の「責任概念なき個人主義」

 10月の記事で、私はひろゆきの思考について「責任概念なき個人主義思想」と形容した。ある社会に生きる人間は、自分の幸福のみならず、その社会に生きる自分以外の他者に対しても責任を負っている。しかし、ひろゆきにはそうした発想がない。

《ひろゆきの人権抜き個人主義思想は、たとえば日本国憲法の中に盛り込まれている「個人の尊厳」の尊重に基づくものではない。そのために彼の個人主義は、利己主義となる。つまり、他者の存在を前提とし、様々な個人によって構成される社会を前提とし、その社会の中で自分が下した決断が他者に対して及ぼす影響について、責任を引き受けなければならぬ、という思考の機序はひろゆきの中にはない。彼の個人主義は、自分自身の自我を絶対的な基準として、あらゆるものの価値評価をその自我という基準によってしか行わないエゴイズムなのだ》(文藝春秋digital「《論破王を「論破」する》ひろゆき本はなぜ売れるのか?「バカ」を出し抜く“危ない思想”」より)

137万人のTwitterフォロワーを持ち(2021年11月26日時点)、インフルエンサーであるひろゆき氏 ©文藝春秋

 そしてこの思考は、ひろゆきに限らず、世の中でインフルエンサー的な「啓発」を行っている人物にほぼ共通する思考なのではないかと考えている。たとえば、堀江貴文や西野亮廣、中田敦彦といった、ソーシャル型オンラインメディアNewsPicks、あるいはNewsPicks Book(2017年4月~2020年6月)によく登場する(した)ような人たちといえば理解してもらえるだろうか。

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 もちろん、そうした人物たちの考えは一枚岩というわけではなく、よく観察してみれば頻繁に喧嘩をしてさえいる。しかし、「責任概念なき個人主義思想」だけは全員に共通するように思える。先述の、ビニールハウス農家の若者も、この種のライフハック思考に分類することができよう。原料の高騰を個人の努力だけで凌いでも、産業全体としては疲弊する。しかし全体に対する責任という思考は、彼にはないのだ。

 その他にも、 たとえば田端信太郎は、NewsPicks Bookレーベルから刊行した著書『ブランド人になれ!』(幻冬舎)の中で、サラリーマンのような「奴隷の幸福」は終わり、これからは一人一人が「ブランド人」にならなければならないと説いており、公共的な支え合いの観念がない強烈な個人主義思想が窺がえる。

田端信太郎著『ブランド人になれ!』幻冬舎、2018年

 また、幻冬舎の編集者で2020年までNewsPicks Bookの編集長だった箕輪厚介は、著書『死ぬこと以外かすり傷』(マガジンハウス)で「3歳児レースで勝ち残れ」と述べて、「3歳児」という言葉でたとえられる、常識やルールに捉われない「動物的な感覚に突き動かされながら」行動する人物を理想化している。ここで抜け落ちているのがまさに「責任」という概念だろう。「3歳児」が自由に振舞って許されるのは、責任を取る必要がないからだ。

 こうした「NewsPicks系」の思考は、個人の自由や幸福を重視するという点で、夫婦別姓やセクシュアルマイノリティの権利といったリベラル系の社会政策と結びつくことができる。一方で経済政策については、新自由主義に至る道を回避することができない。たとえ当人の自己認識がそうでなかったとしても。

 たとえば、正社員を「既得権」としてみなすパソナ会長の竹中平蔵や、解雇規制の緩和や高額納税者への追加の投票権付与を訴えたKADOKAWA社長の夏野剛は、ネットでは新自由主義者として敬遠する人が多く、また彼らが政府の規制改革等の諮問会議によく列席していることから、利益相反の疑いも持たれている。しかし、まさにNewsPicks系の記事や動画では、そうした数々の発言や疑惑の問題には触れられることはなく、彼らは経済やライフハックに関する「論客」的な立場で登場する。世間では色々と騒がれてはいるが、「NewsPicks系」の人たちにとっては、面白く有益な人間であれば、ありがたく話を聞く価値があるのだ、と考えているようだ。これは結局、彼らは公共的なものまでビジネスの価値観であらゆるものを見ているからではないか。