それでシルクのパジャマとシルクのシャツを売るようになったんです。友達のカメラマンにモデルの着た商品を撮影してもらい、そのときついでに僕の試着した姿も撮ってもらい、あわせてそれをチラシに使いました。高級なシルクが手頃な値段で買えたので、日本で爆発的に売れたのはいいけど、一方で、納品が遅い、縫製が悪い、サイズが違うと毎日のようにクレームが来ました。60人のオペレーターがいても間に合わないから、僕も対応するんですけど、お客さまの生の声は非常に厳しかったですね。
「僕っていう社長なんていない」「モデルがダサすぎる」
――具体的にはどんなクレームですか。
「社長を出せ!」というクレームをオペレーターが受けると「社長を出せと言っています」と僕のところに来る。「僕が社長の石田です」って電話口で言ったら、男性のお客さまが「こんな商品送って、おたくはダメだ」と。僕は自分のことを「僕」という癖があるんですが、「僕っていう社長なんていない」とさらにダメ出しです。「おたくの会社は、縫製も悪いけれども、社長になりすました君、石田っていうのか。ずるいぞ」と叱られることがしょっちゅう。「僕、社長なんですけども」と説明したら、「君の会社はやる気がないのか」。「どうしてですか?」と聞くと「華やかなシルクなのにダサすぎる、特にモデルが。ダサすぎて、売る気がないのかい? モデルさんがいかに大事かということもちゃんと勉強しなさい」。
ひどいこと言うなあ、と思いながらもこう質問しました。「お客さま、あの、似合ってないって、どのモデルさんなんですか」と。そしたら、「この男性、茶色のシャツを着てる彼。彼はどうみても田舎くさくてシルクと似合わない。あんたは社長じゃないんだから、社長に言っときなさい」。お客さまがおっしゃるモデルは僕なんですよ。その言葉が何よりもショックで、自信を完全に喪失しました。
しかし、たしかに商売のときにはそういうことも考えなきゃいけない。困ったなあと思いまして、それに悔しいというのもあったから、必死でモデルを探した。それがスターにしきの(あきら)だったんです。(後編へ続く)
(撮影:深野未季/文藝春秋)
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