今年の9月7日、東京都三鷹市にある跨線人道橋を解体撤去するJR東日本の方針を受け入れたと三鷹市がホームページで告知した。

 老朽化のため安全面に問題があることや、観光資源として三鷹市へ譲渡しても修繕維持費用が年間3000万以上かかることから撤去になった(ただし工事開始は未定)。

〈「撮り鉄」たちの聖地、昭和の遺産が消える〉などと新聞各紙で報じられたのも記憶に新しい。

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昭和のアニメにも影響か

 跨線人道橋(以下、跨線橋)とは、歩道橋と同じ構造で線路をまたぐ人道のことを指す。三鷹の跨線橋は1929年に旧鉄道省が三鷹電車庫(現・三鷹車両センター)開設の際、人の往来確保のために建設した。

「あの橋からの落日の眺めは昔のアニメに活かされたと思うんです。私も参加した『ルパン三世』や『天才バカボン』にもね。三鷹周辺にはアニメスタジオやアニメーターが多くいましたから。姿を消すのは残念です」

タツノコプロは三鷹にある

 そう惜しむのは、かつて三鷹にもスタジオがあったアニメ制作会社・東京ムービー(現・トムス・エンタテインメント)の下で働いていた元アニメーターのTさん。氏によれば、

「いまも三鷹駅近くにタツノコプロがあるでしょう? 『一発貫太くん』や『ハクション大魔王』の夕陽にも影響してるんじゃないかなあ。暮れなずむ時の太陽や家並みのシルエット。まさに昭和の叙情ですよ」

 たしかに、一連のアニメには夕陽が出ていたような記憶が……三鷹跨線橋、「撮り鉄」のみならず、もしや昭和アニメの聖地なのか? こうなると、百聞は一見に如かず。実際に跨線橋に行ってみるしかないではないか。

 跨線橋への順路として、まず三鷹駅南口を出る。階下にバスロータリーがあるペデストリアンデッキを下り、総武線、東西線、中央線の線路を右手に見ながら武蔵境方面へ直進だ。路上案内に「電車庫通り」とあるように、この先には三鷹車両センターがある。電車庫通り、という古風な語感は「鉄」さんたちにはたまらない響きだろう。

三鷹駅南口を出る
 

国鉄三大ミステリーの現場

 ここは鉄道ファンだけの地ではなく、実は昭和史の現場でもある。下山事件、松川事件と並んで国鉄三大ミステリーに数えられている「三鷹事件」が起きた場所だ。事件は1949年7月15日、車両庫から時速60キロで暴走した7両編成の電車が脱線転覆。死者6名、負傷者20名の犠牲者を出した。国鉄労働組合の共産党員と元運転士が逮捕されたものの、未だ真相に謎が残るとされる。今はその面影などなく、のほほんとした線路沿いの住宅地である。