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2021/12/04

 200メートルほど歩くと、すぐに跨線橋に到着だ。全長93メートル、幅約3メートル、高さ約5メートル。見上げると淡いグリーンの再塗装は橋の北側だけで他はサビで茶っぽいのがわかる。どうも予算不足で放置されてるらしい。階段は砂利混じりのゴツゴツしたコンクリ造りで、ストロークが戦前仕様なのか短い。全体的に昭和ライクな武骨感が漂う建造物である。

 

 フェンスで安全を確保された橋の上、人道も階段同様の凸凹した質感だ。そこにはすでに先客がいた。子どもを遊ばせている親子、一眼レフを構え、列車を待つ熟年カップル、腕組みして線路を見下ろす男性など。

 

「撤去が決まったニュースを知って来たんですよ。高さ的に、走ってくる列車と橋上が近いじゃないですか。動画での迫力が凄い!」

「ここの柱や橋桁には古レールが使われてるんです。よーくみると刻印があります。日本だけじゃなく、ドイツやアメリカの製鉄所からのものだとわかるんですよ!」

 

 カップルが興奮気味に語るように、橋を通過する電車の距離感が近い、近すぎる。アクション映画のスタント場面に持ってこいのロケーション度合なのだ。

運転士が鳴らす「汽笛」

 プオン! 汽笛が一声、響き渡る。子どもが「バイバーイ」と飛び跳ねたり、電車に手を振って喜んでいる。

「最初に訪れた時、意外と眺めがいいので驚きました。周りの建物が低いから空が広くて。電車との距離が近いからか、子どもが手を振ると運転士さんが汽笛を鳴らしてくれるんです。大人でも嬉しいですよね」

 近隣の親御さんたちにとって、ここは親子揃って楽しめるスポットなのだ。アニメーターが惚れ込んだという夕暮れ時も近い。それまで遠く奥多摩の稜線を眺めたりして和んでいよう。

 

 と、傍らに腕組みの男性が立っていた。

「ああやってね、ちびっ子が一生懸命に手を振っても汽笛が鳴らない時があるでしょ。だから昔っから、ここらの小学生や中学生は汽笛が鳴る鳴らないの当てっこやるんスよ」

 年齢不詳、ホワイトソックスの帽子にジャイアンツのジャンパーを羽織った男性はバリトンの効いた声で教えてくれる。確かに手を振る子どもらへ汽笛を鳴らさず通過する快速や特急「あずさ」や「かいじ」がある。

「俺ね、百発百中。確実に鳴らせるんス」

 え?! まさかの「汽笛おじさん」? これは只者ではない方に出くわした。筆者が男性を見返すと男性はポーカーフェイスのまま。男性はちびっ子に混じって、下りのかいじを迎える格好で立つ。右手に帽子を持ち、両手を交差させて合図を送る。まるで手旗信号を送る熟練の鉄道マンだ。