1ページ目から読む
3/3ページ目
特急は轟音を響かせながら甲府へ向けて走り去る。予告汽笛は不発。
「腕、落ちたなあ。引退っス」
男性は帽子をとって潔い一礼をし、跨線橋を下っていく。ナイストライ、こちらは気にしません!
三鷹跨線橋の建設から今年で92年。1939年に三鷹に移り住んだ小説家・太宰治は跨線橋に登って町を眺めるのが好きだった。
毎日、武蔵野の夕陽は、大きい。ぶるぶる煮えたぎって落ちている。(中略)ここは東京市外ではあるが、すぐ近くの井の頭公園も、東京名所の一つに数えられているのだから、此の武蔵野の夕陽を東京八景の中に加入させたって、差支え無い。(太宰治『東京八景』)
その沈む夕陽は、筆者にも眩しく沁みるものだった。