さて、水辺の画に続いて集められたのは、人の姿が描き込まれた風景画である。カミーユ・ピサロ、ファン・ゴッホ、ポール・ゴーガンらの作品の中に、農村で労働に勤しんだり祭りに興じる人たちの姿が見出せる。市井の暮らしに寄り添った親密な表現も、印象派の特長であると実感する。
優しく、かつ過激なところが人気の秘密
展示はさらに、エドガー・ドガの競馬をモチーフとした作品やレッサー・ユリィ《冬のベルリン》などの都市景観をテーマにしたもの、エミール・ベルナールやエドゥアール・ヴュイヤールらによる肖像画、オーギュスト・ルノワールが果物や花を描いた静物画へと展開していく。
多様な画家の多彩な手法・作風から絵画表現の奥深さを知れる。展名にあるモネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガンといった人気画家の作品のみに偏らない展示構成にも、好感が持てる。
おそらくはイスラエル博物館の印象派コレクション自体が、美術史の「流れ」を強く意識したものなのだろう。パッと目を惹く作品を集めるというよりも、印象派というものが絵画の歴史の中でどう生成され、発展し、成熟していったのかを、しっかり辿れるよう蒐集されているのに違いない。
イスラエル博物館の逸品の数々が教えてくれる
今展を観ることで浮かび上がってくるのは、印象派とはただ目に優しく心地よいだけのものではないという事実。印象派が世に登場した19世紀後半とは、現代まで続く近代市民社会が定着せんとする一大転換期だった。自由主義経済が勃興し商品文化が花開き、文化の担い手が国家・為政者から市民へと移り変わろうとしていた。
移ろいやすいものと不易なものが、せめぎ合いながら同居する時代でもあって、印象派はそうした世相を色濃く反映した表現だったのである。
軽やかで見目麗しく、同時に美術史をガラリと塗り替えてしまう過激さも含んでいる。思いのほか多面的だからこそ、印象派はいまだ世界中で人気を保ち続けるのだと、イスラエル博物館の逸品の数々が教えてくれる。