11月22日、逮捕されていた元国防相の金寛鎮氏が11日ぶりに釈放され、韓国では驚きとともに嘆息がもれた。

 金氏は、軍のサイバー司令部に当時の政権に有利なように世論操作をさせた軍刑法違反(軍の政治介入禁止)容疑などで11日に逮捕されていたが、自身が申し立てしていた逮捕適否審(韓国の刑訴法では身柄拘束について裁判所にその適否審査を要求できる)が認められ、一部容疑が不十分となり、釈放となった。

 文在寅大統領が就任して6カ月。公約として掲げていた「積弊清算」(過去の積もった弊害を清算して正すこと)によって、李明博、朴槿恵両政権から多くの逮捕者が続出している。

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延坪島砲撃事件の現場を視察する金寛鎮国防相(当時) ©共同通信社

 金氏は、北朝鮮による2010年3月26日の天安沈没事件と同年11月23日の延坪島砲撃事件を受けて、同年12月に李明博政権の国防相に就任。続いて、朴槿恵政権でも国防相を務め、その後国家安保室長に転じた。

「政権をまたいでの抜擢は、保守政権とよほどケミ(ケミストリーの略で、韓国では相性がいいなどの意味で盛んに使われる)が合ったのでしょう」(韓国全国紙記者)

 金氏は、盧武鉉政権時代には軍の頂点、合同参謀本部議長も務めており「骨の髄まで軍人」(同前)ともいわれた。延坪島事件後、「戦争は戦争の意志で防がなければならない」と話し、北朝鮮からは「好戦狂の虚勢」「金寛鎮の奴」と名指しされ、金正恩朝鮮労働党委員長がもっとも嫌う人物としても知られた。

 中国では、金元国防相の逮捕を「THAAD配備の主導者を剔抉するサインを送ってきた」(中国官営CCTV)と報道したという。

 金元国防相に続いては、駐日大使を務めたこともある李丙琪・元国家情報院院長(のち青瓦台秘書室長)が大統領への不正資金提供などで逮捕され、李・朴政権時代の国家情報院院長の逮捕者は3名にのぼっていた。

 李・朴政権時代の高官の相次ぐ逮捕劇の本丸は、他ならぬ李明博元大統領だという。

大統領時代の李明博氏 ©共同通信社

フラッシュバックする衝撃的シーン

「積弊清算」が着々と進められる現在の韓国社会の空気は、まるで時が遡ったかのようだ。かつて軍事政権で大統領を務めていた全斗煥・盧泰愚両氏が、手を取り合って民主化後の法廷に立っていた奇妙で衝撃的なシーンがフラッシュバックする。

 巷では、文大統領を支持する人からも「もう、こんな昔のような雰囲気はうんざり。文大統領が李元大統領逮捕を悲願としている理由は分からないでもないが、決定的な罪状がなければ強引な検察の捜査や逮捕は止まるべきだ」(40代会社員)といった厭世的な声も増えつつある。

 そんな雰囲気での金元国防相の釈放は、「検察の無理筋な捜査が明るみとなった格好で、これからの捜査に若干ですが勢いをそがれた感じです。ただ、検察はメンツにかけて本丸まで走るでしょう」(前出・韓国全国紙記者)。

 韓国では一連の逮捕は「積弊清算」ではく、「積弊」の同じ発音からもじって「敵廃清算」(政敵を廃する)とも揶揄され始めた。