「スカウトを洗脳していったんだよ」
有力選手に関しては、雑誌から拡大コピーした投球フォームやバッティングフォームの写真も張り出した。それらは、必ずスカウトの目に入る。
すると、スカウトたちは互いに「この選手、良くなりましたね」「あれ、なんでこんなに球が速くなったの?」と、自然発生的に情報交換が始まると加藤は言う。
「こういうスタイルで選手を探しているんだなというのが分かるように、プレゼンテーションというか、そういうミーティングを設定したんです。編成室に来たらパチンコや競馬のネタじゃなくて、野球のネタになるようにもね」
そうしたデータを積み上げていくことで、さらに精巧なプレーヤーの比較が可能になる。
「例えば、5社のマスコミがある選手を全員『ドラフト1位候補』って書いたら、スカウトもみんな1位って言うだろ? それは株と同じ。みんながいいって言ったら、株価って上がっちゃう。その中で、スカウトから『こいつは僕らのチームにマッチしていない』『加藤さんの言う条件ならこの選手です』って言ってくれないと困るんだよ」
そうやって、加藤は「スカウトを洗脳していったんだよ」と笑った。
2016年(平成28年)。
スカウト部門を担って3年目。担当スカウトの山口和男が、宮崎・都城高のひょろっとしたエースを、強く推薦してきた。
「甲子園には出ていませんが、球質がすごくいいんです」
それが、山本由伸という逸材との出会いだった。
身長177センチ、体重77キロ。
サイズは、ドラフト候補としては標準、むしろ、投手ならやや小さい部類になる。
映像を見ても、かなり細めの印象があったという。
「身長が180あるかないかくらいで、坊主頭で、線が細くて、イメージとして、プロに入って練習についていけるのかな、みたいなところはあったね」
それが、加藤の正直な第一印象だった。