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「家族がいまどう暮らしているかも分からない」 20年間の服役を終えた男性が訴える、40年前の“冤罪事件”と“調書なき自白”

田園調布殺人事件は冤罪だったのか #2

genre : ニュース, 社会

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佐藤さんの日記帳の裏書 年齢欄は「57」

 今回、弁護団が再審請求で提出する証拠は他にもある。2017年に2度目の再審請求を行った際には、佐藤さんの日記帳が見つかっている。佐藤さんは殺害されたとされる1980年7月24~25日時点では56歳だったが、見つかった佐藤さんの日記帳の裏書の年齢欄は「57」と書き換えられていたのだ。

 佐藤さんの誕生日は8月12日だ。一方、折山さんが佐藤さんを「殺害した」とされる日は7月24日か25日。つまり、57歳の誕生日を迎えたのは殺害されたとされる日から約2週間後ということになる。そのため弁護団は「8月時点でまだ佐藤さんは生きており、自分で手帳の年齢欄を書き換えたのではないか」と考えているという。

 他にも弁護団は折山さんが佐藤さんに自宅の売却を任され、殺害されたとされる7月以降に作成した精算書なども証拠として提出する予定だ。「佐藤さんが死んでいることを折山さんが知らなかったからこそ、わざわざ作成した」というわけだ。

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「被告人が殺害を認めたのだからそれでよい」とする裁判所

――死体すらないなかで踏み切った突然の逮捕。

©️iStock.com

 1985年に折山さんが逮捕された後に行われた裁判で、弁護人を引き受けた湯川二朗弁護士は手記でこう記している。

「何時、何を用いて、どのような事情から殺害したかは分からないが、とにかく被告人がその頃佐藤を殺害したことだけは確かである、と言われたのでは、被告人は一体どのように防御すれば良いのであろう。…唯一の物証は、被害者と目される変死体が太宰府の山中で発見されたことである。しかし、変死体と被害者との同一性をめぐってすら幾多の疑問点がある。結局のところ、被告人を本件犯行に結び付けるものは被告人の自白しかない。ところが、被告人の自白調書は1通しかない。それも本件犯行事実とは異なる場所、方法、動機に基づく簡単な調書でしかないから、自白調書は存在しないと言ってもよい。…要するに、裁判所は被告人が佐藤殺害を認めたのだから、それでよいとするのである。これが刑事裁判であろうか」