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 このとき、私は警視庁本部の組対三課に着任して、国粋会を担当していた。 

 国粋会では、毎月1回、「月寄り」を催していた。浅草寺裏の「浅草観音温泉」という温泉施設で、国粋会の組長クラスやそのお付きが数十名集まり、食事をしながら、新しく組に入った者や、組長に就任した者を紹介したり、組の意思決定や指示事項を伝達する会合だ。 

 私は同僚刑事とふたりで会場の前に張り込み、幹部の面割をしていた。 

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 普段なら、ヤクザも(表の顔として)友好的だ。我々を見つけると「あれ、〇〇さん来てんだ」と、和やかに声をかけてくることさえある。ところが、この日は違った。 

 浅草観音温泉から出てきた10名近いヤクザがこちらに向かって、突進してきたのである。 

「てめえらこの野郎、他所の組に行って余計なこと言いやがったな!」 

 瞬く間に取り囲まれてしまった。しかし、我々はこのとき、その「余計なこと」が何のことか一切わからない。 

「何なんだ? わからねえよ。わかるように言えよ」 

「お前のとこの刑事が、他所の組に行って、国粋の人間が山口からカネを借りている、どうだこうだと言ったらしいじゃねえか」 

「少なくとも俺らは言ってねえ。だが話はわかった。調べてそんな奴がいるか、しっかり回答してやる」 

 と、その場はなんとか切り抜けた。帰ってすぐに調べると、連中の言葉は本当だった。 

 国粋会の一部は、山口組に押さえつけられる寸前だったのだ。それからほどなく、国粋会では、山口組加入を支持する派閥と反対する派閥による激しい対立が生じた。ついには国粋会内部で銃撃事件が発生するなど、内紛に発展。住吉会や稲川会など、関東の暴力団の親睦団体である「関東二十日会」を脱退し、山口組傘下に入る結末を迎えたのだった。 

東西ヤクザの掛け合い 

 褒めるわけではないが、山口組の組員はユーモアのある奴が多い。 

 紳士的な奴が多い関東ヤクザにたいして、関西のヤクザは表向きさっぱりした性格で、取調室で対峙しても、冗談を飛ばす余裕がある。 

 山口組のヤクザは取り調べで、「警視庁は紳士だね」とよく言う。大阪府警や兵庫県警は、警察もヤクザ顔負けの勢いで怒鳴りまくるらしい。 

 ガサ入れで組員ともみ合っている映像を見ても、警察とヤクザがお互いに怒声を張り上げている。もし相手がドアを開けなかったり、金庫の鍵が開かなかったりすると、チェーンカッターや電動ノコギリですぐに壊していく。 

 掛け合いのときも関西弁のほうが威圧感がある。例えば、東京の飲み屋で喧嘩しても、関西弁で捲し立てていると、「関西のヤクザが暴れています」と、周りの関東人は恐れをなす。関東のヤクザは相手が関西弁でも引かないだろうが、カタギにとっては関西弁は怖い。「このままやったら、ゼニカネじゃ済まんようになるで」「俺で話が済んどうから、まだな、ええ思うとかなあかんで。この先にいってみ、もっとややこしなるよ」「俺がヘソ曲げて『もう知らんわい、おんどれ』言うたら終わりやで」‥‥。 

 たしかに言葉は怖いが、よくよく考えれば関西のヤクザも、関東のヤクザもやることは同じだ。むしろ標準語で、ヤクザとは一見して見えないような格好、礼儀正しい者までいる関東ヤクザの方が不気味である。