暴力団員が反省・謝罪を示す行為として、自身の指の一部を切断する「指詰め」は、ヤクザ社会で長年続いてきた慣習として、小説や映画などのワンシーンとして目にすることも多い。しかし、実際にどのように「指詰め」が行われているかを知る人は少数派だろう。
ここでは、暴力団犯罪を専門とする警察の捜査員たち、いわゆる「マル暴」を長年務めた櫻井裕一氏の著書『マル暴 警視庁暴力団担当刑事』(小学館新書)の一部を抜粋。「指詰め」を発端にした狂気の事件、捜査中に実際に目にした「指」にまつわるエピソードを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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ヤクザ世界の「指詰め」
広く知られた話だが、ヤクザ社会には小指を切断する「指詰め」や「エンコ詰め」と呼ばれる慣習がある。重大な不始末を起こした場合や、組同士が揉め事を起こしたときの「ケジメ」として、自らの小指を切断し、謝罪する相手方に差し出すというものだ。
小指を切断するときは、出刃包丁やノミをトンカチで叩き、一気に切り落とすのだが、当然、痛い。激痛を伴う断指だからこそ、相手に対する謝罪の印となる。
もしすでにどちらかの手の小指を切断している場合、もう片方の小指を切断して差し出すことになる。もし、両手の小指を落としているならば、次は薬指の第二関節。それもないとなると、中指‥‥ということになる。
さすがに中指まで失うほど下手を打てば、ヤクザをやめたくなるのではないかと思うが、実際に指が2本しかないヤクザは存在する。日医大事件のホシ、矢野睦会会長・矢野治は、人差指と親指しかなかった。
暴対法施行から20年以上経ち、半グレがメディアの注目を集め、暴力団が衰退の一途をたどっていた2013(平成25)年、この伝統に異常なこだわりを持つヤクザが、嫌がる相手を押さえつけ、無理やり小指を千切ってしまうという狂気の事件が起こった。
結果的に、ヤクザ社会の重鎮である極東会会長・松山眞一への「頂上作戦」に発展することになるが、このときはまだ小さな内輪揉めだった。
「東京・池袋を本拠地にする極東会の枝の組長が、無理やり小指を千切られた。被害者である組長も被害届を出すといっているから、急ぎ、事件をまとめてくれないか」
13年の9月、当時、警視庁本部で組対四課の係長だった私は、所属長である組対四課の課長室でこう告げられた。「この組を追い詰めるいい機会だ」と、課長は付け加えた。