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弱体化のための集中戦略 

 警視庁の組対四課では、住吉会、稲川会といった関東の主要組織や、勢力を拡大する山口組などを研究し、勢力弱体化を狙った「集中戦略」を立てている。どのシノギを取り締まれば資金を断てるか、どの組員を摘発すれば組織が弱まるか、という作戦である。 

 極東会は組員数こそ中規模程度だが、関東のヤクザ社会の中でも一目置かれる存在である。常日頃、隙あらば組織壊滅を狙っている警視庁にとって、この内輪揉めはチャンスになり得ると映った。 

 私は四課長に呼ばれる前、ある大物組長の頂上作戦をほかの警察本部と合同で手掛けていたため、その流れの中で「櫻井係長にやらせよう」と肩を叩かれた。事案の概要を聞くと、小指を千切られたヤクザと、加害者のヤクザは、同じ極東会の組長クラスだという。 

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 ならば、モタモタしていられない。 

 内輪揉めは、落着まで時間を食わない。上のヤクザが解決に動き出すと、一瞬にして身内の論理で「手打ち」となって事件が片付けられてしまう。迅速に被害届を取り、早期に事件化するのが、この種の事案の鉄則だ。 

ニッパーで無理やり小指を切断 

 被害者は60代の極東会系組長。この男、人生の大半をヤクザとして生きてきたようだが、人柄はごく温厚。それこそ、“昔かたぎの下町ヤクザ”というのがしっくりくる男である。 

 それが極東会の会合で、別の組織に属するイケイケの組員に因縁をつけられたという。その場はどうにか収まったが、因縁をつけた連中の腹は煮えたままで、後日、目出し帽をかぶって組長の自宅に乱入。数人がかりで組長の体を押さえつけ、ニッパーで無理やり小指を切断してしまった。目出し帽を着けていたため、具体的なホシの名前は挙がっていなかったが、明らかにイケイケの組員らによる犯行である。 

 指詰めというしきたりは、あくまで本人の自発的行動という建前によって成立している。嫌がる相手を覆面で襲って指を強奪するのは、渡世の常識を踏み越えた異常な行動だった。 

 組長宅の防犯カメラの映像を解析した結果、襲撃犯は合計6人。ひとりは運転手役なので、実際に組長宅に押し入ったのは5人。その車を追跡すると、なんと極東会の本部から出発しているではないか─。