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 外には黒いスーツを着て、帽子をかぶり、白い手袋をした男が立っていた。その男は「お待ちしておりました」と言い、黒い霊柩車のような車に乗るよう促してくる。見知らぬ人だが、どこか安心感があったため、おばあさんはその男に従い、助手席に乗り込んだ。すると「出発しますよ」と一言告げて、男が車を走らせたという。

 車は知っている街並みを抜けて、長田の山の方へ進み始めた。山道をしばらく走っていると、不意に後ろに人の気配を感じた。おばあさんが後部座席を見ると、そこには折り重なるようにして、何人もの人が乗っていた。そして、さらに奇妙なことに、その人たちはみな、全裸の女性だったという。

辿り着いた“奇妙な村”

 何時間経ったのか、それとも数分しか経っていないのか……時間の感覚が曖昧な中、車は山奥で停車した。そこには集落があった。こんなところに村があるとは、おばあさんは知らなかった。

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「到着しましたよ」

※写真はイメージ ©️iStock.com

 運転手の男にそう言われて、おばあさんは車を降りた。後部座席の女性たちもゾロゾロと降りてきた。運転手の男が村の入口(村は木の柵のようなもので囲まれていた)に行き、一人の女性と何かを話すと、おばあさんのもとに戻ってきて「住んでもいい許可がおりました」と言ってきた。さすがに不安になりながらも、なぜか従ってしまうらしく、おばあさんは村に入った。その村は女性だけが住んでいて、しかも全員裸。言葉は通じなかったという。

 その村ではある3人家族にお世話になった。母親とその双子の娘(7、8歳くらいに見えたそうだ)の家族は、やはり言葉が通じないものの、色々と世話を焼いてくれたという。おばあさんは裸足で、着ていた病院の服も汚れていたため、その家族が着替えを用意してくれた。彼らは家というよりも小屋のようなところに住んでいて、室内にはほぼ何も物がなく、お粥のようなものを食べていたという。

「今すぐ帰りたい」と懇願すると…

 なぜか居心地がよく、誰もが優しかったため、おばあさんはそこで数日暮らした。大人たちは近くのオブラート工場で働いているらしく、昼間は双子の娘たちが相手をしてくれた。おばあさんの他に服を着ているのは運転手の男だけで、言葉もその人にしか通じない。村から少し離れた場所に住んでいた彼には通訳の役割もあったようで、どうしても村人とコミュニケーションがとれないときは、彼を訪ねて通訳をしてもらったという。

 しかし、村での生活が1週間ほど続くと、やはり徐々に心細くなってきて、どうしても帰りたくなってしまった。運転手の男の家を訪ねたおばあさんは、「家族も心配してるだろうから、今すぐ帰りたい」と懇願した。すると、「どうしても帰るのですね。いつまでもいてくれていいのですよ」と止められたが、「どうしても家族に会いたい」と言うと承諾してくれた。

 運転手に連れられて村の入口まで行くと、そこで振り返るよう指示された。目の前には、10人ぐらいの女性が並んでいて、真ん中にいた村長らしき人が少し前に出てきた。すると、両端からそれぞれ双子の娘が出てきて、列の中央に向かって歩き始めた。彼女たちは葉っぱで作った器を腕に抱え、その中には塩が入っていたという。