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2022/01/18

 逃げる際はバス停の近くに個人の荷物をこっそり隠しておくか、あらかじめ決めた逃亡先に荷物を郵送する。後者の場合、別の会社で働く技能実習生の同胞にかわりに郵送をおこなってもらい、本人は職場に出勤してアリバイを作ることが多い。

 漁村Zでは、集落外に出るバスは日没前にほぼなくなってしまううえ、乗り込む際や移動中に顔見知りに会うリスクもある。なので、フェイスブックの不法滞在者コミュニティなどで知り合ったブローカーに車を出してもらって、夜中にそっと消える実習生も多いようだ。

牡蠣はスーパーなどへ出荷されていく。撮影:郡山総一郎

「ジエウの場合、逃げる前に他の会社のベトナム人の技能実習生たちからあれこれ理由をつけてカネを借りとって、5万円ほど持ち逃げしたと聞いとる。ただ、当時いちばん仲が良かった実習生の1人は『仲が良うても信用できん相手じゃあ』いうて、500円しか貸さなんだらしい」

 ジエウの人となりがうかがえる。ちなみに彼女は、事故以前に茨城県内で半同棲状態にあったボーイフレンドに対しては、かつてA水産から逃亡した理由を「中国人の先輩にいじめられたから」と話していたが(ちなみにベトナムは歴史的経緯や領土問題から、庶民の対中国感情が非常に悪い)、A氏によると中国人の従業員はその年は働いていなかったという。

不法滞在・無免許・無車検・無保険・無謀運転…

 取材に対応してくれたA水産の経営者夫妻のほか、茨城県内にいるボーイフレンド、さらには最近になり仮放免された妹(不法滞在者だが)にいたるまで、なぜかジエウの周囲の人間には感じのいい人や親切な人が多い。しかし、彼女本人については、5年半前の来日時から一貫して、不真面目でその場しのぎのウソを繰り返す人物だったと考えるよりほかない。

 記事を書く側としては、来日当初は純粋で真面目だった技能実習生が「闇堕ち」したというストーリーを期待しなくもなかった。だが、現実はそれほどドラマチックではなく「最初からどうしようもない人物が来日し、場当たり的で無責任な行動を重ねた末に他者を殺めた」という理解のほうが正しそうだ。

事故の犠牲になった建築士の男性が設計したカフェ「二葉じかん」の外観。茨城県筑西市。筆者撮影

 2020年12月、茨城県内で死亡ひき逃げ事件を起こした当時も、ジエウは仮放免された不法滞在者であり、しかもわずか3ヶ月半前に無免許運転で有罪判決を受けて執行猶予中の身だった。それにもかかわらず、無車検・無保険の自動車を再び無免許で運転して無謀な運転をおこない、対人事故を起こしたうえ、負傷者を救護せずに逃走して人命を奪うことになった。

 詳しくは『文藝春秋』4月号に書いたが、彼女のような人物──。すなわち、現在の技能実習制度のもとで来日した外国人労働者のなかでも、質の低い(と書くしかない)層の人材が実習先を逃亡した後に無免許運転をおこなって交通事故を起こす例は、近年かなり増加している。報道された事例だけでも、2020年に十数件。新聞に載らないレベルの対物事故や、さらには通報がなされなかった例まで含めれば、実際は10倍以上あるかもしれない。

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