「ペス山さんの連載のGOサインが出た後、部署内で『このセクハラ加害者のX氏は誰?』という話になりました。X氏の名前は出さず、その人が連載していた有名マンガ誌【☓☓】の名前を出すと、上の人たちがザワザワしだして、私に言ってきたんです。
『たとえばもし【☓☓】で連載している大物漫画家とX氏が懇意の仲だったらと仮定しよう。そうなると、X氏のセクハラを告発するような漫画を、大物漫画家はどう受け止めるだろう。「小学館では金輪際、漫画を描かない」と言ってくる可能性がないわけじゃない。そうしたらお前は責任を取れるのか?』と。
もちろん、責任なんて取れません。ただ責任は取れないけど、それとセクハラ被害は関係ないことです、と話しました。結局連載はできましたが、まさに“権力”を目の当たりにした瞬間でした。こうして他人によって潰されたり、自分自身が会社の迷惑になるかも、と忖度してしまうことで、世の中のセクハラ・パワハラ被害がなきものになっているのだと感じた象徴的な出来事でした」
スルッと連載OKが出た「現代的な背景」
既視感がありすぎて、金城さんの言葉に腹からの「あ~」という共感のため息が出る。さらに部署内がゴタゴタする前に「案外、スルッと連載のOKは出た」という部分にも、非常に現代的な背景を感じた。
「連載の決定という最初の難関が簡単にクリアできたことは、会社としても、社会的に意義のある漫画だと思っている、ということだと思うんです。ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが、今の時代、男性だってジェンダーやセクハラの問題を無視できなくなっていますよね。だからこそ、連載をやらない、という判断も難しかったのではないかと想像します。
時代遅れにはなりたくないし、理解できていると示す意味でも、連載にGOは出た。でも結局、そこに利害が絡んだり、自分に近いところで不都合が生じると、一転して及び腰になる。思想の上では男女平等だし、どんなハラスメントも許さないと口では言うけれど、それは《ただし自分に火の粉がかからない範囲で》という注釈付きなんです」