文春オンライン

「五輪で風化させたくない」熱海土砂災害から1ヶ月 元AKB“旅館若女将”が語る被災地の「深刻な状況」――2021年BEST5

genre : ニュース, 社会

note

実家の旅館もキャンセルが相次いだ

――土砂災害の後、島田さんのご実家の旅館の経営状況はどうですか?

島田 災害を受けた場所からは距離もあるのですが、それでも「熱海」と報道されている以上、お客様からキャンセルが相次ぎました。半分以上がキャンセルになり、「熱海に行っても大丈夫ですか?」という問い合わせのお電話も多く頂きました。

「東京方面からだと来られないので、電車を乗り継ぐか、車で遠回りをするしか来る手段がない」という旨をお伝えして、あとはお客様の判断に任せる形を取りました。

ADVERTISEMENT

©文藝春秋/上田康太郎

――「今は来ないでください」とはなかなか言えなかった?

島田 そうですね。もともとコロナ禍の中でお客様がまったく来なくなってしまったので、「旅館を閉める」という判断は、経営上、苦しいかなというのもありました。また、「熱海に来たい」というお客様がいる以上は、旅館を開けておきたいなという方針もあります。

 でも、やっぱりコロナもあるので、こちらから全面的に「ぜひ熱海に来てください!」というのは言いにくいですよね。熱海は都内や関東圏など、遠方から来る方が多いですから。もちろん感染対策は充分していますし、来て頂いた方にはおもてなしは100%やらせて頂くつもりです。館内でも、空気清浄機を多く買って設置したり、アルコール消毒もこまめに行ったり、換気も徹底しています。

©文藝春秋/上田康太郎

島田の中でぶつかる「2つの感情」

――熱海市民の声のなかには、行方不明者の捜索やコロナのことを考えると、「観光客を迎えるのはもう少し後にすべきだ」という声もありました。

島田 もちろん私もまずは行方不明者の方の捜索が最優先だと思います。ですが、熱海はグループでやられている母体が大きいホテルだけでなく、私のところも含めた家族経営の旅館も多いです。そういうところはコロナ禍の中で、月の半分を休んだりしながらなんとかやっているのが現状です。従業員や、取引先の生活もある。細々と開けたり閉めたり、タイミングを見極めて営業している状態です。

©文藝春秋/上田康太郎

 コロナ禍の中でも動く若い子たちをターゲットにする旅館さんもありますし、うちもそういう層を意識した着付けプランも作っています。ですが、そういうことも含めて全面的に広告を打ったりはできない。緊急事態宣言が出ている中で、我慢している人もいるわけですから。ましてや熱海はおじいちゃん、おばあちゃんが多い街で、観光客がたくさん来れば感染リスクは高まってしまう。だから毎日、私の中には「観光自粛はしかたない」という気持ちと「お客様が来てくれないと、旅館の存続に関わってしまう」という両方の気持ちがあって、本当に毎日、感情と感情がぶつかり合っています。