暗闇の中、ホテル前の河川敷に大勢の人が集まり、提灯と日の丸の小旗を手にしている。そして、スピーカーからは大音量で
「天皇皇后両陛下! ようこそ岐阜県へ! 天皇陛下バンザーイ! 皇后陛下バンザーイ! 天皇陛下バンザーイ!」
と繰り返している。歓迎したい気持ちはとてもよく分かるが、これではお二人もお休みになれないのではないか……。そう案じていると、両陛下がお泊りの部屋のカーテンがほんの一瞬だけ開いた。だが、それもすぐに閉じてしまった。
新幹線のホームで見た“忘れられない光景”
12年に同じく岐阜県で国体が開催され、天皇皇后両陛下が来県された。この時、私にとって生涯忘れることができない出来事が発生した。
天皇皇后両陛下は帰京するため、岐阜羽島駅から新幹線にご乗車になった。駅は封鎖はされていないものの、改札内に一般客の姿はなかった。元々乗降客数の少ない駅で、列車が到着する時刻以外は、人がいない。
入場券を買ってホームに上がり、制服の警察官にここにいてもよいかと尋ね、よいとの返事を得た。見送りに来た県知事や国会議員、報道陣に紛れていたが、直前になってスーツの私服警官が近寄ってきて排除されてしまった。
仕方がないので反対側のホームに上がってみた。こちらのホームには、私と1組の親子だけがいた。両親と小さな女の子の3人家族だ。列車がホームに入り、両陛下が乗り込まれたと思うのだが、反対側のホームからでは車内の様子はほとんど見えない。
諦めかけていたその時、美智子さまが反対側の窓までやって来て、ホームにいた女の子に向かって手を振ってくれたのだ。天皇陛下もこちら側におみえになり、美智子さまの隣でしばし手を振ってくれた。
反対側のホームには、知事や国会議員をはじめとする地元の有力者、そして報道陣が待ち構えている。さすがに天皇陛下は少しの後、そちらに行かれたが、美智子さまは発車までずっと女の子に手を振り続けていた。新幹線の窓ガラスが反射して、うっすらとしか姿を拝見できなかったが、生涯忘れられない経験になった。