いわれてみるとその通りである。目指すのは同じ中学入試なのだから、難度に差があるにせよ、教える内容自体は同じだ。鶴亀算や旅人算といった単元を網羅して教えていくことになる。
では、塾によって何に差が出るのか。矢野さんは「システム(サービス)が違います」という。
普通に考えれば、自習室があったり、質問対応がよかったりする“手厚い塾”の方が、どんな生徒にとってもいいように思える。そこで、矢野さんに「このシステムに合わない生徒さんっているんですか?」と質問すると、「自分で全部できる生徒さんには合わないかもしれないですね」という答えが返ってきた。
自分で全部できてしまう生徒。つまり、家で黙々と机に向かって勉強ができ、講師に質問をしなくても自分で解決できる生徒ということだ。『二月の勝者』でいえば、上杉海斗の双子の弟はそういうタイプなのかもしれないが、現実にはそんな生徒は滅多におらず、大抵は親が家で勉強をするのを見張ったり、分からないところを教えたりしている。
親がどれだけサポートできるか
フェニックスのようなシステムの塾に通う生徒も、大半はそうした親からのフォローが必要不可欠だ。だが、夫婦揃って仕事で忙しかったりすると、受験のサポートにあまり時間を割くことができず、結果的に子どもが成績不振に陥ってしまうというケースはよく聞く。
そうしてエリート塾についていけなくなった生徒が、手厚いシステムの塾に転じて、成績をあげるパターンが多いようだ。
「今、オンライン授業の影響でどこの家にもWi-Fiが通ってますよね。大人だって、ついついYouTube見ちゃうでしょう。そうした誘惑に、子どもが勝てるわけがないんですよ」(転塾して成績があがった生徒の保護者)
家には誘惑が沢山あって勉強どころではない。しかし、塾の自習室にいけば、友達も頑張って勉強しているし、自分もやろうという気になる。『二月の勝者』でも、上杉海斗は自習室がある塾に移って、勉強をするようになる。自宅には過干渉な母親がいて、ウザったいし、部屋は成績がいい弟と一緒だ。だが自習室に行けば、そうした環境を気にせずに勉強することができる。