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――美川さん自身は、もう一度紅白に出たいという気持ちはあるんですか?

美川 割と冷静ですね。「紅白に出たいですか?」とよく聞かれるけど、ヒット曲が出て自信を持って胸を張って出ていくならいいけど、この年で話題づくりで出ていくのはなんか悲しいわよね。だから、これまでの衣装もほとんど解体しちゃいました。それに私たちの頃はNHKも大掛かりなセットでお金も使ってステージを準備してくれましたけど、今は時代が違うから。もうあの頃みたいにはできないわよ。

――美川さんが出場された2009年には19組が出演していた演歌、歌謡曲の歌手の方も減り続け、今年は8組になりました。

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美川 私は、NHKには演歌や歌謡曲というものをもうちょっと大事に扱ってほしいと思ってます。世の中には100歳以上のお年寄りが何人くらいいるか、お考えになったほうがいいと思います。だって、お年寄りが紅白見たって知らない人ばかりじゃないですか。石川さゆりちゃんや坂本冬美ちゃん、水森かおりちゃんが出てきたらほっとする人も多いんですから。とは言っても作る側も若い人ですから、昔の演歌の人たちのことはわからないかもしれないわね。

Ⓒ文藝春秋

氷川きよしさんに「ギリギリのところまではいいけど」

――北島三郎さん、森進一さん、布施明さんが紅白を卒業され、今年は出場回数50回の五木ひろしさんが不出場を宣言しました。

美川 五木さんも50年もやってきて、北島さんの上に行くのは失礼なのかなと自分で思ったんじゃないかしら。もちろん落選というのが嫌で卒業した方もいると思いますけど、大御所はみんな自分の引き際をわかってるから。2007年くらいに楽屋が一緒になった布施明さんが、「美川さんさあ、紅白そろそろいいよね」って話をしていたんですけど、2009年に本当に卒業されて素敵な引き方だと思いましたよ。きーちゃん(氷川きよし)は演歌じゃない歌で注目を浴びてるけど、みんながきーちゃんのように変化できるわけじゃないから。

――2年前にジェンダーレスを宣言されたりと、氷川さんの近年の変化についてどう感じていますか。

美川 実は私、きーちゃんに相談されていたの。その時は「ギリギリのところまではいいけど、それ以上は慎重にね」と伝えました。今の時代だから自分が楽に感じる形でやっていくのが理想だけど「やっぱり演歌の部分も忘れちゃだめよ。お客さんはあなたを王子様だと思ってるんだから。私とは違うんだから」ってね。きーちゃんは九州男児で、頑固で自分の生き方を全うするタイプだから。悩んでいる時は喝を入れたりしてね。

――氷川さんの“限界突破”の裏には、美川さんの助言もあったんですね。今年の大晦日は、どんなご予定ですか?

美川 紅白はテレビで観るつもりよ。コロナのこともあるから、日本になるか、ロスになるか、ラスベガスになるかはまだ決めていないけど。毎年、生放送を最後まで観ています。いつか是非、きーちゃんにトリを取ってほしいわ。

Ⓒ文藝春秋

――最後に、美川さん自身の今後の目標を教えてください。もしかして「引き際」について考えていたりするのですか……?

美川 実は私、引き際って考えたことないのよ(笑)。もちろん限界というか、声の衰えはあると思うんです。でもボイストレーニングに通って、新しい歌を歌いたい。歌手はどうしても昔のヒット曲、懐メロの引き合いが多いけど、私はあんまりそっちは興味がない。しぶといのよ。最近はYouTubeで「美川憲一のおだまりチャンネル」も始めて、サソリを食べたり、激痛の足つぼや心霊スポットを巡ったりしてるわ。みんなが楽しんでくれるなら、それもいいじゃない?