今年も年末恒例「M-1グランプリ」で審査員をつとめる上沼恵美子さんが、「文藝春秋」2021年8月号で50年の芸能人生を語り尽くしました。「人生でいちばん傷ついた出来事」だったという 「怪傑えみちゃんねる」終了、そしてM-1炎上騒動の真相について明かした手記を再公開します。(全2回の2回目/#1から続く、初出:2021/08/20)
一番好きで一番嫌いな人
コロナ下で唯一の救いは、夫との関係が悪くならなかったこと。あと6年で金婚式を迎えますが、よくもったなと思います。
結婚したのは、22歳になったばかりの頃でした。身震いするほどの恋におちた私が、無理やり結婚してもらった感じです。この世で一番好きになった人は間違いなく旦那。やがて一番嫌いになるんですが……。でも夫婦の大半が「一番好きで一番嫌い」な関係ではないですか。
結婚すると、好きだったところが一気に嫌になります。たとえばフランス料理店にデートで行くと、夫はスープをひと口飲むたび、お肉を食べるたびに、白いナプキンで口元をさっと拭う。私は、「フランス人みたいでカッコいい! キャー!」ってなる。フランス人はどんなイメージやねんという話ですけど(笑)。それが結婚した途端、「毎回毎回拭くって、どれだけ神経質なんや」と感じるようになる。そう、結婚って粗探しの連続なんですよ。
夫は典型的な「団塊の世代」で、明治男よりも頑固です。家事は絶対に手伝わない、女房を褒めない、お上手をいわない。三高ならぬ「三ない」。夫と手をつないだり、腕を組んだりしたことも一度もありません。生まれ育った時代もありますが、主人の3歩後を歩くのが普通です。
それでも結婚2年目ぐらいまでは、夫のことが好きでした。でも長男が生まれて夜泣きの日々が続くと、はっと冷静になる。夫は夜遅くまで仕事で帰って来ないし、家には姑さんしかいない。夜中に「ワーッ」と叫んでしまうほど、結婚生活に嫌気が差すこともありました。
結局、長男を出産すると、すぐに復帰します。この時期からコンビではなく「上沼恵美子」としての活動です。自由に使えるお金が欲しかったし、何よりタレントとして不完全燃焼だったからです。
復帰にあたり、夫から「歌は歌うな」「演技はするな」「東は滋賀、西は姫路まで」「僕の年収を越えるな」などの条件を突き付けられました。
結局、全部破ることになりますが、大阪を拠点に仕事をする形は、今に至るまで変わっていません。