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60歳のときに本気で離婚を切り出した

 実は6年前、60歳のときに離婚を提案しました。これっていう明確な理由はなく、長年の結婚生活でたまった灰汁をすくうような感覚です。還暦を迎えて1人になるのも寂しいかなと思ったけど、彼と暮らし続けるよりマシかと思って……。

 滞在先のイタリア・フィレンツェにあるレストランで私から切り出しました。映画のワンシーンみたいでしょう。

「これからの人生、別々に息をしませんか」

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 そう私が言うと、夫は、テーブルをバーンと叩き、無言のまま店を飛び出した。彼の人生で一番傷ついた瞬間じゃないですかね。誇り高きプライドの塊のような男ですから。

2年連続で紅白の司会もつとめた ©共同通信社

 ホテルに戻ると、夫が大きなダブルベッドの真ん中でふて寝をしていました。私に寝る場所を与えないため、ど真ん中で寝ている。意地悪でしょう。部屋にはダブルベッドがひとつあるだけでソファもない。仕方なく床で寝ました。

 その旅行ではフィレンツェに2泊した後、ナポリで3泊しましたが、ずっと床、床、床。日本に帰るまで一言も口を利かなかった。せっかく高い旅費を払ったのにもったいないことをしました。

 結局、今に至るまで夫からの返事はありません。離婚を突きつけられた瞬間は傷ついたと思いますが、もうけろっと忘れているでしょうね。

 私は弁護士にも相談するほど大真面目でしたけど、結局、離婚話は立ち消えになりました。

 いま夫とは別居しています。彼は私が買ったマンションに住んでいて、週に1回自宅へごはんを食べに来ます。なんていい身分なんでしょう。3日以上経つと、「早く帰らへんかな」と息が詰まるんですよ。ずっと一緒に住んでいたのに、不思議なものです。別居は本当におすすめ。夫も「1人暮らしってなんて快適なんだろう」と気に入っています。

 ただ最近痛感するのは、だてに40年以上もひとつ屋根の下で生活していなかったということです。

 本当に鬱陶しい存在ですけど、夫は私をいちばん理解してくれる味方だと、コロナ下で再認識しました。

 昨年、どうしても仕事にやる気が起きない日があり、夫を初めて頼ったんです。

「『恵美子、頑張れ』と言ってくれへん?」とメールでお願いしました。すると主人から「仕事なんかへっちゃらだよ。何てことない。君には、人に迷惑かけず生きられる幸せがあるんだから」と返信があった。心に響きました。よく私の化粧は濃いと言われるんですが、その日は、いつもの2倍ほどファンデーションを塗りたくりました(笑)。私の化粧が濃いのはやる気の現れなんですよ。