「欽ちゃん、日本テレビとNHKどっちが好きなの?」って聞かれて
それまで萩本はコント55号として計5年間、『紅白』の応援合戦に登場。坂上と所狭しと舞台を駆け回り、NHKホールを沸かせていた。2年ぶりのオファーに喜んでいた時、日本テレビの開局年に入社し、『ゲバゲバ90分!』『光子の窓』『九ちゃん!』などを手掛けてきた井原高忠氏が「裏番組」を頼みにきた。
「井原さんに『紅白から依頼が来てまして、嬉しい気分でいますんで』って言ったの。そしたら『欽ちゃん、日本テレビとNHKどっちが好きなの?』と聞くんですよ。いつも大将って呼ぶんだけど、そういう時は欽ちゃんって言うんだよね(笑)。僕はね、『NHKで番組やったことないですもん。ですから、紅白の依頼がありがたいと思ってるんです』って答えたの。『ああ、そうだよね~。で、どっちが好きなの?』ともう一度聞くのよ。『それは日本テレビですよ』って答えるしかない。だって、ずっと世話になってるんだもん。その言葉を聞いたらさ、井原さんが『話は二言、三言で終わらなきゃダメだ。やっぱり欽ちゃんいいな~。じゃあ帰るね』って席を立っちゃったの。それで決まりだもん~」
当時、萩本は同局で『スター誕生!』『特ダネ登場!?』『コント55号のなんでそうなるの?』というレギュラーを持っていた。萩本にとって井原は憧れの存在であり、わざわざ局に電話して『九ちゃん!』の会議を見学させてもらったこともあった。そんな34歳のコメディアンが、46歳の制作局次長の頼みを断れるはずもなかった。だが、この決定に相方の坂上二郎は不満を述べなかったのか。
「大丈夫よ、欽ちゃん。いつも女房が面白いと言ってくれてるから」
「二郎さんって、一切文句言わない人なんですよ。『55号のことは、全て欽ちゃんが決めればいい』と任せてくれていた。テレビ局から何言われても『本当ありがたい話で』と答えるだけ。ディレクターも気を遣わなくていいから楽なの。文句も感想も聞いたことない。でも僕がボヤくと、必ず励ましますね。『ディレクターを信用しなきゃ。編集してカット、カット』『大丈夫よ、欽ちゃん。いつも女房が面白いと言ってくれてるから』って」
萩本の奇想天外な振りに、坂上が汗だくになって必死に応える。コント55号はアドリブの応酬で時代を切り拓いていった。