その後の報道で、無理心中を図った女性は10年以上、自身の家族とは連絡をとっていなかったこともわかりました。幼い頃、彼女の家族に起きた一連の出来事が、今回の事件にも影響しているのかどうか、それはわかりません。しかし、私にとっても、また社会にとっても、非常に印象深く、考えさせられる事件であったことは間違いありません。
この件で唯一残された少女の父親もまた、妻と娘たちが亡くなったその日の夜、カフェイン剤を大量服用して自殺を図りました。しかし、彼は未遂に終わり、その後警察から事情聴取を受けているとのことで、真相の解明が待たれます。
築8年のアパートで……
一方で、4月に東京都八王子市のアパートで外階段が崩落し、住人の女性が転落死した事故では、現場の映像を見て驚いた人も多いのではないでしょうか。「階段が崩落した」という情報だけを聞くと、築何十年の古い建物を想像してしまいますが、今回の事故が起きたのは築8年という、比較的新しいアパートだったからです。
すぐにこのアパートではかなりずさんな工事が行われていたことが判明し、その施工業者である「則武地所」は事故翌月に自己破産を申請して倒産。日本中で「自分のマンションは大丈夫なのか」「施工業者は則武地所じゃないか」と、不安が広がりました。
ただ、私がこの件で考えたのは、“告知義務”についてです。これまでの連載でも説明してきましたが、宅建業法により、事故物件の契約の際には業者に告知義務が生じるため、事故物件であることを隠蔽して貸し出すのは違法です。
しかし、告知が必要なのは何年前までの出来事なのか、また、前の住人が殺人事件や自殺以外で亡くなった場合にも告知が必要なのかなど、ルールに曖昧な部分も多かったため、昨年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が国土交通省から発表されました。
“告知が不要”と判断されるケースとは?
このガイドラインを読んでみると、「自宅の階段からの転落や、入浴中の溺死や転倒事故、食事中の誤嚥など」については、「原則として、これを告げなくてもよい」と書かれています。
ここで想定されているのは、「階段や風呂場で足を滑らせてしまい、転倒時に頭を打って亡くなってしまった」といった“不慮の死”のことではありますが、業者が都合よく解釈すれば、八王子市で起きたような事故も、告知は不要と捉えられてしまう可能性もゼロではありません。