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「譲りたくないという気持ちで熱中して書いたのは久しぶり」ジェーン・スーの“表情が変わった”推しと過ごした1年

「譲りたくないという気持ちで熱中して書いたのは久しぶり」ジェーン・スーの“表情が変わった”推しと過ごした1年

ジェーン・スーさんインタビュー#2

2022/01/21

source : ライフスタイル出版

genre : エンタメ, ライフスタイル, 読書

note

ジェーン・スーにとっての人生の豊かさ

――前編で話していた“第二の思春期(笑)ですね”。

スー そうです。けど、本当に大体のことはどうでもいいですよ。私にとって大事なのは、自分の文章だとかラジオでどこまで自分に正直にやるかということだから。

――今まで培ってきた自分の中にあるものを大切にしていったほうがいいと。

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スー 人が奪いに来れるものは、大体どうでもいいものですよ。地位とか名誉とかがそう。お金はねぇ、全部持っていかれたらもちろん怒りますけど、執着はしないほうかも。私にとっての人生の豊かさは、新しいものの見方を覚えるとか自分の知見を蓄えていくことだと、最近よく思います。知識とか教養ということではなく、自分の経験や今まで導いてきた考えを重ね合わせて、“あぁ、そういうことか! ユリイカ!”ってなるのが楽しいし、推しを観賞する心を持つとか物事の仕組みについて考えているほうが楽しいんですよ。それって、お金が一銭もなくなってもできる豊かなことじゃないですか。それは人から奪われることはないし、奪うこともできないもの。だから、なくなることを心配する必要もないんです。

 

推しについて書いてる間は夢中だった

――推しについて書かれた「ラブレター・フロム・ヘル、或いは天国で寝言。」は、推しが誰かと言及せずとも、それぞれの愛する推しを持つ人たちから多くの共感を呼びましたね。

スー 嬉しいですね。あれは久しぶりに突き動かされて、なにかに書かされたものだった、というか。書いてる間も夢中だったし、書き終わってからも夢中で提出したら、編集担当者さんに「何を言ってるのかわからない」って、遠回しかつ丁寧に言われて(笑)。何度もやりとりしながら書き直す中でも、こう書いたほうがわかりやすい、みたいなことはやりたくなかったというか。今までだったら、仕事だから赤字が入ってもはいはいみたいな感じで直してたんですけど、今回に関しては「ここはそうじゃないんですよ」みたいな感じになって。

――創造性がより高まったんですね。

スー 譲りたくないという気持ちをもってこんなに熱中して書いたのは久しぶりで、“あぁ、書きたいものがないと書けないんだな”っていう当たり前のことに気づかされました。だから、どうだ! くらえ! みたいな感じで書いた文章を、この『ひとまず上出来』に入れられたのはすごく嬉しいんです。