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 白石から「もったいない」という言葉が出るとは思わなかった。白石自身も、それほど得られた“報酬”は多くないからだ。たしかに、19年9月の事件は大学を卒業して就職間近な時期のものだ。第一志望の教員ではないとしても、就職をすることで、安定した生活や安心感を得られるはずだった。私からすれば、白石だって職安法違反となった事件で有罪判決は下ったものの、執行猶予がついており、人生のやり直しができたはずだ。白石にだって“やり直せる”と思える時期があったように思える。

 また、2019年11月に起きた嘱託殺人事件についても聞いてみる。ALS患者の女性(当時51歳)が、安楽死を希望し、Twitterで知り合った医師らが殺害したという事件だ。

「報酬が130万円ですよね? 医者だったのに、もったいない」

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 この類似の事件の感想も「もったいない」だった。自身の犯行についても「殺害しても入手できたのは、結果として50万円ほど。割に合いません」と言っていたが、もっと多くのお金でなければ、犯行に及ぶのは損だと思ったのだろうか。もしそうであれば、価値観はほかの事件を見ても変わっていないようだ。得られる額で判断している。

 外に出られるとすれば、何をしたいのかについても聞いてみた。

「女性と性行為をしたいですね。今は、拘置所内で自慰行為は週1回ですから。ネタもありませんからね。後、ラーメンや焼き鳥、寿司も食べたい」

 ヘラヘラした様子でそう答える。拘置所ではどうやら筋トレや読書、将棋をしたりして過ごしているようだ。

移送中の白石隆浩死刑囚 ©文藝春秋

 スカウト時代から最後まで「お金」と「性」を欲した白石。裁判では起訴事実を認める方向のため、死刑を覚悟しているようだった。性への執着は強いが生に対しては投げやりに見える。最後にもう一度、事件当時の自分について聞いた。

「レイプして、生かして帰したら、捕まってしまう。だから殺した。ちょっと考えが浅かったですね。人を1人殺す報酬として50万円は安すぎます。性欲だけに走ってしまいましたね。取り調べでは、警察に、性犯罪は麻薬みたいな状態だと言われましたが、まさしくそうでした」

 こうして3回目の面会は終わった。

 私は、裁判中にでも、もう1回は白石と面会ができるような気がしていた。しかし、この面会を最後に、直接話を聞ける機会はなかった。

 白石とは、何度も面会できている記者と途中で拒否される記者がいる。また、途中から金銭を要求しないという話もあり、最後の面会の後も、私は何度か現金の差し入れなしで面会のために立川拘置所へ出向いた。電報で、可能性のある日程を提示し、その日程すべてに顔を出す。しかし白石が私の前に現れることはなく、「お金の問題か?」と思って謝礼を準備しても、私の呼び掛けに白石が反応することはなかった。

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