Twitterを通じて被害者に接触し男女9名を殺害した犯人、白石隆浩の死刑判決が2021年1月15日に確定した。しかし、2019年の池袋ホテル殺害事件や、2021年に起こった女子中学生の自殺幇助事件など類似の事件は後をたたず、「座間9人殺害事件」が終わりを迎えたとは言えない。

 なぜ座間9人殺害事件は起きてしまったのか。ここでは、若者の生きづらさを長年取材してきたライターの渋井哲也氏が事件を再検証した『ルポ 座間9人殺害事件~被害者はなぜ引き寄せられたのか~』(光文社新書)の一部を抜粋。白石死刑囚と実際にDMでやり取りをしていた直美(仮名・21歳)への取材の模様を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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直美の背景

 小学2、3年生の頃から、直美は女子にはトイレで水をかけられ、男子には殴られるようになった。なぜそのようなことをされるのか。直美に心当たりはない。幼かったからか、まだいじめだという自覚はなかった。一方で、学校に行けないときがあり、それを親には言えなかったという。地域の公立中学に進学してからも、小学校時代の同級生がいたことで、いじめられることが続き、この頃になって自分がされているのは「いじめ」だと気がついた。

 さらに、中学生になってからは、家庭環境にも悩まされるようになる。

「父親はお酒を飲んでいるときは、すぐに首を絞めるんです。私の友達の首を絞めたこともあります。そのときは、さすがに警察に逮捕され、留置場に入ったこともあります」

9人の遺体が見つかった座間市内のアパート ©文藝春秋

 アルコールを飲むことで問題行動(いわゆる問題飲酒)を起こす父親。もしかすると、アルコール依存症だったのかもしれない。だが、治療のために病院に行ったことはなかった。直美は、そんな家族の中には「居場所がない」とずっと感じていた。

 家族に対する違和感は高校進学後も続く。「人生うまくいかない」。そんなことを思っていたとき、Facebookで知り合った自称“30代の医師”の男が悩みを聞いてくれた。2017年1月には、その男に呼び出されて秋葉原に行った。「公務員になりたい」と思っていた直美は、将来の話がしたかった。会話は楽しかった。しかし、“30代の医師”に「誰もいないところで話そう」「家に資料がある」などと言われ、男の自宅に向かうと、男性の態度が急変し、レイプされてしまう。

「ネットで知り合った最初の人で、信用していました。レイプには抵抗したんですが、無理でした。終わった後は1人で部屋の外に出て、震えていました」